ノイ村の新譜キュレーション

Cardi B & Megan Thee Stallion、Dua Lipa……女性ミュージシャン同士のコラボ曲から切り取る、メインストリームの“今”

「2020年」にウンザリして疲れ切った私たちのための曲
Avenue Beat「F2020」

Avenue Beat「F2020」

 元々カントリーポップを中心に活動していたアメリカ・ナッシュビル出身のトリオであるAvenue Beat。そのメンバーが7月に未完成の音源をTikTokにアップしたところ、翌日にはなんと450万回再生を記録し、完成後のバージョンがアップされた現在でも絶大な人気を集め、いよいよTikTokの枠を超えてメインストリームへのヒットへと手を伸ばそうとしているのが、この「F2020」である。タイトルにある“F”はFワードを意味している。つまり、「2020年」に中指を立てているのだ。

 単音のギターが紡ぐシンプルなフレーズとトリオならではのコーラスワークを活かした音像の中で、ボーカルは終始気だるげに、いかに2020年にウンザリしているのかを綴っていく。「12月31日、私はビールを吐くほど飲んで、『2020年は私の年になるよ』って言った。実際そうなるって思っていたんだ。この最悪な一年に1、2カ月くらい与えるまでは。(December 31st, I grabbed a beer. Threw it up, said, "2020 is my year, bitches." And I honestly thought that that was true. Until I gave this motherfu**er like a month or two.)」と歌い出し、映像にはマスクを着ける人々やプロテストに参加する人々の様子が映し出されていく。そしてフックで歌う、「2020年なんてF**kだ。まだ悲しいし、お金も無い(Lowkey f**k 2020. Still sad, still ain't got no money.)」というフレーズ。内容への強い共感と響きの良さが相まって、嫌なことがあった時に思わず口ずさみたくなるような1曲になっている。

 この楽曲が生まれたきっかけは、実際に生活にウンザリする中で、歌詞にもある通り、メンバーの愛猫が亡くなってしまったことだという。強い閉塞感を感じたり、ニュースに憤りを感じる生活、その中で起こる身近な不幸。もちろん、それ自体は悲しい出来事である。ただ、あくまで世の中の事象ではなく、パーソナルな出来事がトリガーとなっているからこそ、「F**k 2020」という言葉がよりリアルな感情となって聴き手の心を動かす。だからこそ、本楽曲は大きな共感を集めているのだろう。誰もが抱く感情を正直に、怠く歌うこの曲は、2020年を生きるというムードを的確に描いた楽曲だ。間違いなくTikTokという枠を超え、メインストリームへと広がっていくはずである。

avenue beat - F2020 (lyric video)

驚異のスピード感で人気を集める、TikTok発の新鋭ラッパー
ppcocaine「3 Musketeers feat. NextYoungin」

ppcocaine「3 Musketeers feat. NextYoungin」

 2020年の6月に音楽活動を開始したアメリカ西海岸出身、19歳のppcocaine(通称:cocaine)はTikTokで今、最も人気を集めるラッパーの一人だ。6月にリリースした「DDLG」がすでにTikTokで900万回以上の再生回数を記録し、若い世代を中心に強い支持を集めており、その勢いのままに新たなスマッシュヒットとなっているのが、日本語で“三銃士”を意味する言葉を冠した「3 Musketeers」である。

 cocaineの魅力は、まるでカートゥーンから飛び出したような奔放な声でアグレッシブに放たれるラップと、過激なトピックを扱いながらも下世話になりすぎないユーモア溢れるワードセンスにある。本楽曲でもこの魅力は存分に発揮されており、「私には3人のBitchがいるんだ。まるで三銃士みたいにね(I got three bitches on me like the three musketeers.)」というキラーフレーズが炸裂するフックを筆頭に、数多もの女性を自らのテクニックで魅了していく様をコミカルかつ好戦的にラップしていて、とにかく聴いていてテンションが上がる1曲となっている。

 本楽曲は多くの若い人々の支持を集め、TikTokフォロワー数世界1位(約8千万人)の16歳、チャーリー・ダメリオが本楽曲を使ったダンスビデオを投稿し、Spotifyでの再生回数は自身最多の800万回を突破と、その勢いは加速していく一方だ。ppcocaineの楽曲は、「過激である」ということから批判の対象となることも少なくないのだが、むしろ本人もそれを自覚した上でやりたいようにやっており、リスナーもその姿勢に共感して応援している。だからこそ、音楽活動を開始してわずか数カ月という驚異のスピードでここまでの人気を得ることに成功したのであり、ppcoccainが新世代のアイコンとして語られる日もそう遠くはないように感じる。

ppcocaine - 3 Musketeers feat. NextYoungin ( Official Audio/ Lyric Video ) Prod. SpainDaGoat
RealSound_ReleaseCuration@Noimura20200823

■ノイ村
普段は一般企業に務めつつ、主に海外のポップ/ダンスミュージックについてnoteやSNSで発信中。 シーン全体を俯瞰する視点などが評価され、2019年よりライターとしての活動を開始
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Twitter : @neu_mura

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