嵐 大野智、『怪物くん』『魔王』などで見せる非凡な演技力 ひとクセあるキャラたちが並ぶ主演作品を考察

 「うるさぁぁぁぁい!」ーーあの怪物智くんが帰って来る! 嵐のリーダー大野智が主演し、2010年に放送された連続ドラマ『怪物くん』(日本テレビ系)が8月22日から土日帯で再放送されることが決定した(関東ローカル・各放送終了後にTVer、日テレTADA、Huluでも配信)。情報が公開されるとSNSでは再放送を歓迎するコメントが溢れた。藤子不二雄Aの傑作の実写化となる同ドラマは、大野の振り切った演技で大きな話題となった。今回は再放送を機に、大野の演じたひとクセあるキャラを振り返り、彼の非凡な演技力について考察したい。

不言実行な役作りで挑む

 俳優・大野智の演技力を多くの人が知るきっかけとなったのが連続ドラマ初出演・初主演で挑んだ2008年『魔王』(TBS系)だ。大野は復讐の鬼となった天才弁護士・成瀬領を演じた。撮影前に「全部が難しい。復讐するとか人を憎むっていう気持ちがわからない。そういう経験がないから共感できない」と思い悩んだという大野だったが、いざドラマが始まると、そこに存在していたのは復讐のために生きると決め、怒り、切なさ、哀愁を全身に纏った成瀬領そのものだった。この作品をきっかけに大野のファンになったという、いわゆる“魔王堕ち”と呼ばれる人たちを生み、大野の出演する歴代作品の中でも、一番好きな作品として『魔王』を挙げるファンも多い。

 クセのあるキャラの代表格の1つとして外せないのが、2008年の『歌のおにいさん』(テレビ朝日系)の矢野健太役だろう。子ども番組の歌のお兄さんには似つかわしくない仏頂面で歌を歌っていた主人公が、子どもたちとの交流を通じ、次第に心情が変化していく様を、コミカルなニュアンスを含め、丁寧に演じた姿が印象的であった。同作ではソロで主題歌「曇りのち、快晴」も披露しており、このドラマを思い浮かべるたび、大野がイキイキと歌った同曲を懐かしく思い出す人も多いのではないだろうか。

 また掴みどころのないクールな役柄を演じた月9初主演作『鍵のかかった部屋』(フジテレビ系)の榎本径役も忘れ難い。人物としても謎が多く、密室という言葉に異常な興味を持つセキュリティーオタクの榎本が、次々と密室で起こる難事件を解決していくドラマだ。専門用語が多い長セリフを眉ひとつ動かさず、流々と話す姿からは普段のおっとりとした大野の姿は微塵も感じられない。感情を抑え、時折見せる微妙な表情や視線の泳がせ方など、繊細な演技で作品の世界観をより奥行きのあるものとし、原作ファンからも高い評価を得た。

ストイックな役作りを一切表に出さない美学

 初のラブコメ作品に挑戦した『世界一難しい恋』(日本テレビ系)で演じた鮫島零治も、実に愛すべきキャラクターである。天才的な経理手腕を持つ冷徹なホテルチェーン経営者の島は恋愛に奥手で、波留演じるヒロイン柴山美咲と出会い、彼女のために奮闘する姿に胸キュンした人も多いはず。時に子供っぽく、我儘な性格である鮫島の姿にはどこか『怪物くん』での姿を彷彿とさせる。こと美咲に関することとなると、平常心を失い、一喜一憂し、あたふたする鮫島社長を、大野は実にキュートに、かつ魅力的な存在として演じて見せた。ドラマの公式SNSには鮫島社長の恋を応援するコメントが多数寄せられ、SNS上には撮影が行われたロケ地を訪れる“セカムズ聖地巡り”の写真をアップするファンも多く、最終話の放送後も大いに盛り上がりを見せた。

 “セカムズ”のクランクアップ後、すぐにクランクインしたのが映画『忍びの国』だ。大野が演じたのは伊賀最強の忍者 無門。激しい殺陣やワイヤーアクションを交えた戦国エンターテイメントの超大作は、映画『怪物くん』以来6年ぶりに挑んだ単独主演作品だ。特筆すべきは激しいアクションに加え、大野の役者としての天賦の才能を多くの人が感じることができた、哀しみと怒りの芝居である。子どもの頃に買われ、人を人とも思わぬ“虎狼の族”となった無門が、石原さとみ演じるお国と出会い、人の心を持って初めて味わう切なさや、愛しさ、そして怒りが入り混じった感情が、スクリーンから迸り出る見事な芝居に感動したことは忘れられない。

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