『Farewell Your Town』インタビュー

Laura day romanceはインディロックとポップスの新たな架け橋に 『Farewell Your Town』で響かせる“拠り所となる歌”

「今までと景色の見え方が変わった瞬間に『曲にできる』って思う」

ーー「架空の街」というアルバムコンセプトは、どんなきっかけで生まれたのでしょうか。

鈴木:シャムキャッツの『AFTER HOURS』とかはっぴいえんど『風街ろまん』とか、自分が今まで聴いてきたアルバムの中で、街というテーマはポピュラーというか伝統としてあったと思っています。アルバムというたくさんの曲が入れられる機会をもらって、どういうものが作りたいか考えた時に、好きだった作品のテーマを思い返したら「架空の街」とか「1つの場所で展開される何か」っていうのが頭の中にあって。自分の手持ちの中で組み合わせたらそれが成立すると思ったので、その方向でまとめました。

ーー例えば、銀杏の木を見て〈君〉を思い出したり、午後の空を見て退屈になったり。時間や風景、季節など、自分を取り巻くものに感情を重ねることで「情景」が描かれていると思いました。そうした歌詞の書き方はどんな感性や人生経験から来ていると思いますか。

井上:感情が景色に乗っているものがもともと好きで、そういうものが日常の中で一番グッとくるポイントのひとつだと思っているので、意識して書きました。架空の街の中で起きている日常の一つ一つを書いていきたくて。たぶん影響を受けているとしたら、今まで読んできた吉本ばななさんや江國香織さんの本で、優しい表現の中に「あぁ、わかる〜」ってなるものがたくさん含まれている文章だと思っていて、優しい共感が曲に合ってると思うことが多いですね。あとは迅くんが書いた「girl friend」の歌詞で、〈自転車泥棒 二人乗り〉っていう2番のサビを聴いた時に、映画『オーバー・フェンス』でオダギリジョーさんと蒼井優さんが羽を撒きながら自転車を2人乗りしているシーンが浮かびました。私が書いた歌詞じゃないけどそれはすごくリンクしていて、歌うときも思い出したりしていましたね。

鈴木:自分が悲しい想いをしたときとかに、今まで見ていた景色の見え方が変わったり、生活している中で目に入るものが変わったりする経験があると思うんですけど、そういう瞬間に「あっ、曲にできる」って思うんです。なので自然にそういう歌詞が増えるんだと思います。アルバムのテーマ自体がそういう情景を必要とするというか、登場人物が共有するそれぞれの景色が必要な作品になると思っています。かっちゃん(井上)もそれは意識して書いてくれているんですけど、そういう部分が重要かつ自分の中で大事な場面なので、歌詞に反映されているんじゃないかなと。映画で会話の後にパッと別の景色が印象的に挟まれてたりするじゃないですか。例えば机の上に取り残されているコップみたいな、インサートが入ることによって景色の見え方が変わる。そういう歌詞表現ができたらいいなというのは考えています。

ーー具体的な場所を特定することなく、「街」「季節」といった誰もが日常的に感じている言葉を使うことで、聴く人を選ばない普遍的な歌になっていると思いますが、そういう音楽を鳴らしたいのはどうしてなのでしょうか。

井上:何も考えず聴いているだけで「なんか良い」っていうのが一番嬉しいかもと思っているんですけど、そういうときにスッと入ってくる言葉が「街」とか「季節」じゃないかなって。確かに私も迅くんも好きでよく使ってる言葉なんですけど(笑)。

鈴木:本当に。「街」も「季節」も抑えてこの数です(笑)。

井上:どの季節にも、どの街にも当てはまるようにしているし、トゲトゲしていなくて丸いイメージだから、どんな状況でも受け入れられるといいなと思って使っています。すごくパーソナルなことを普遍的な詞にしようとしている部分もあるんですけど、後から見返して「結局個人的なことでしかないな」と思うこともあるので、ちゃんと普遍的な歌と言ってもらえるのは嬉しいですね。

鈴木:音楽って部屋で聴くときもあるけど、自分は帰り道だったり移動中とかのタイミングで聴くことが多くて。自分の中で重要な作品って、家で聴いてわからなくても、外出時に「あっ、そういうことだったんだ」ってわかる歌詞とかが多くて。そういう感覚を抱いてほしいっていうのは思いますね。どこかで聴いてくれる人と共鳴する部分があれば、その人にとって特別な作品になると思うし、そう思ってくれる人が多いほど音楽を作る者としては嬉しいので。

Laura day romance / rendez-vous (official music video)

ーー忙しない現代社会を生きていると、街中のちょっとした変化を見落としがちだったり、安心できる場所をなかなか見つけられなかったりするなとつくづく思います。しかし、いつまでも変わらないもの、巡り巡るものについて歌うことで、Laura day romanceの音楽自体が聴き手にとっての拠り所になるんじゃないかと感じました。そういう音楽を作りたいという想いや、そう感じられる音楽が必要であるという想いは、実際に感じていますか。

井上:巡り巡るもの、変わらないものというのは今回のアルバムのテーマとしてあって。歌詞ともリンクしているし、聴いた人がそう思ってくれるのが、このアルバムを作った理由だと思います。いろんな人がいろんなことを思う中で、拠り所になる音楽は必要ですよね。特に今みたいな(コロナ禍になった)ときには......作っていたときはこんなことになるなんて思わなかったけれど、そういう拠り所として機能できるアルバムになるんだったらめちゃくちゃ嬉しいです。

川島:僕もこのアルバム作り終えてこういう状況になって、「架空の街」っていうコンセプトがよくも悪くも現状のみんなの心に引っかかるのかなと思っていて。それはタイミングでしかないし考えて作ってはいなかったけど、リリースしてみんながどう捉えるのか不安でもあり楽しみでもありますね。

磯本:僕がこのアルバムを作っているときに、僕なりの理想の生活というか暮らしを思い描いていたんですよ。自分がこうしたいなと思う暮らしはみんなあって、でもなかなかそれにはたどり着かないじゃないですか。今回のアルバムは、僕がそうだったように、いつかこうしてみたいなぁっていう生活とか暮らしを想いながら聴いてほしいなって思います。ひとりひとりに固有の理想があると思うので、それになるべく寄り添うことができる音楽とかアルバムを作っていきたいですね。

鈴木:自分が好きなバンドはいろいろなことをやるバンドが多いんですけど、くるりとか、中心に普遍的な歌がある音楽に結局戻ってくるんですよね。自分の中でここが柱だと思っているからなんですけど、今ってサイクルが速くて新しい音楽がバンバン出てくるし、話題になるものもガッて出てきてパッと消えちゃうことも多い気がしていて。自分がそういうふうに消費されたいわけではなくて、戻ってこれるような音楽が必要だと思うからこそ、自分たちがそういう立ち位置になれたらいいなと思います。

Laura day romance『farewell your town』

■リリース情報
Laura day romance『farewell your town』
6月10日(水)発売 ¥2,500(+税)

-収録曲-
1.季刊フィルム
2.憧れの街
3.girl friend
4.worrying things
5.lookback&kicks
6.PM4
7.slumbers
8.float
9.radio
10.FAREWELL FAREWELL
11.good night
12.rendez-vous

Laura day romance オフィシャルサイト

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