King Gnu、マカロニえんぴつ、清竜人……セルフカバー各楽曲を聴き比べ 作り手のこだわりが光るアレンジに

 清竜人が5月27日に突如配信リリースしたアルバム『COVER』は、これまで楽曲提供してきたナンバーをセレクトし、セルフカバーした作品集である。アイドル、声優、歌い手、バーチャルYouTuberなど多様なアーティストに提供する彼だが、『COVER』は全楽曲をピアノ弾き語りで統一し、新鮮な質感を与えた作品となった。

『COVER』

 1曲目「イマジネーション」はももいろクローバーZ(以下、ももクロ)への提供曲のセルフカバーだ。ももクロver.は、メルヘンチックな台詞パートに耳を掴まれ、爆発寸前の熱情を歌い連ねた宇宙規模のラブソングへと飛翔していく煌びやかなアップチューンだ。眩いストリングスと跳ね回るリズムに、否応なしに気分が高揚していく豪華絢爛な1曲である。

「イマジネーション」

 一方、清竜人による「イマジネーション」はしっとりとした聴き心地だ。台詞パートを排したことで生まれた長いイントロはゆったりと楽曲の中へ誘い、語尾を伸ばしてこちらに語りかけるような歌唱には切実な思慕が込められている。原曲では賑やかに転がる間奏も、最小の音数でシックに編み直し、ファンタジックなアイドルソングを渋みと色気を感じさせるピアノナンバーへと変貌させた。

清 竜人 ミッドナイト・カバーソング「イマジネーション」

 田村ゆかりの「ゆかりはゆかり♡」や、上坂すみれの「ボン♡キュッ♡ボンは彼のモノ♡」など、清竜人自身が歌うことを想定していなかったであろう作家性を全開にした楽曲にも、その歌心で新たな命を吹き込んだ『COVER』。清竜人のボーカリスト/ピアニストとしての手腕に酔いしれることができる作品だ。

 自分の手から離れた楽曲に対し、別の完成形を示す意義もあるセルフカバーという表現法。両曲の差異にこそ光る作り手のこだわりに注目しながら聴いてみると、様々な驚きが新たに見つかるかもしれない。

■月の人
福岡在住の医療関係者。1994年の早生まれ。ポップカルチャーの摂取とその感想の熱弁が生き甲斐。noteを中心にライブレポートや作品レビューを書き連ねている。
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