大石昌良が配信ライブで届ける“歌うことの楽しさ” Mr.Childrenなどカバー曲から垣間見えた90年代からの影響

大石昌良『ボーダーライン』

 「終了〜!」。5月24日昼、YouTubeでとあるチャンネルの生配信を観始めたところ、まさかの冒頭からいきなり“終了”宣言をされてしまった。そのチャンネルこそ、大石昌良が運用する「大石昌良の弾き語りラボ」。彼はこの日の生配信中に、同チャンネルの登録者10万人突破の瞬間をファンと一緒に迎えようとしていた。が、なんと配信開始前にして、すでにその人数に到達。一瞬にして、“企画倒れの男”の異名を背負うこととなる。

 そんな複雑な心境での幕開けに反して、この日のテーマは休日の昼下がりにぴったりな、大石が好きな歌をのんびりと歌うというもの。自身の持ち歌「パラレルワールド」や、オーイシマサヨシ名義での楽曲をはじめ、スピッツやLUNA SEA、DREAMS COME TRUEらの代表曲カバーも演奏するなど、“弾き語り大好き男”らしいバラエティ豊かなラインナップを披露してくれた。

生配信前にチャンネル登録者数10万人企画倒れの男

 なかでも「君じゃなきゃダメみたい」歌唱時には、サビのワンフレーズ〈幸せのカテゴリー〉についてコメント。「幸せのカテゴリー」とは、Mr.Childrenが1997年3月に発表したアルバム『BOLERO』にされた楽曲のタイトルでもある。大石自身がまさに彼らの影響を色濃く受けた世代であることから、意図して歌詞に盛り込んだとのことだ。ほかにもこの日歌い上げた楽曲は、その多くが1990年代に発表されたものだった。想像するに、彼の音楽的クリエイティビティの背景には、同時代のアーティストや楽曲が大いに存在感を発揮しているのだろう。

 それは、Mr.Childrenを例にすると分かりやすい。大石の演奏や他アーティストへの提供曲からも感じられるが、彼の“技巧派”ともいえる音楽は、高い表現技術を必要としながらも、それ以上に誰もが楽しめるポピュラリティを大切にした作品が多い。それはまさに、Mr.Childrenの楽曲との共通点ともいえるほか、今回のようにシンプルな弾き語りを披露する場面でこそ、その持ち味もハッキリと感じられたはずだ。

 また、これも同バンドより、ボーカルの桜井和寿と大石に共通する部分なのだが、要所要所での声の震わせ方やロングトーンといった歌声の“余韻”が残る部分に対して、多くの情報量を重ねる技術が非常に巧い。例えば、同じ“あ”の一文字を長く発音するにしても、一辺倒な印象を与えることなく、何段階もギアを上げるようにアプローチしていくのだ。このような意識は本人が発言したところではないが、原曲の雰囲気を保ちつつ、同じ弾き語りでも都度ごとに歌声の表情を変えられる歌唱力こそ、大石の持つオリジナルな強みといえる。

 その象徴となったのが、TUBE「シーズン・イン・ザ・サン」のカバーだ。ここでの歌い出しの完成度の高さには本当に驚かされたのだが、本人は歌唱前に「TUBEの禁断症状が出てる……!」と、“歌いたい欲”が手元のデバイスの操作に追いつかない様子。楽曲こそ、1990年代の作品ではないものの、彼の音楽人生や作風を語る上で同時代のJ-POPが欠かせない様子を垣間見られた。

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