シーア、「Together」で描く“自己肯定と他者との繋がり” 闇を切り抜けたどり着いたカラフルな新境地
過去との決別 “闇”から“光”へ
2010年代以降、トップアーティストの仲間入りを果たすと共に、闇から逃避するために自己の存在を隠してきたシーアは、現在、新たな挑戦へと足を踏み入れようとしている。再び、自分の中にあるパーソナルな感情を表現しようとしているのだ。そして、それはこれまでの“闇”とは異なり、圧倒的な“光”に満ちている。かつて自己破壊と孤独に苦しんでいたシーアが、「自己肯定と他者との繋がり」をテーマに掲げているのである。
5月2日にチャリティーソングとしてリリースされた「Saved My Life」は待ち望んでいた「何か」を手に入れ、ついに人生における居場所を見つけたことへの喜びに満ちた楽曲である。〈I know that in darkness I have found my light(暗闇の中で、私は光を見つけた)〉と歌う姿は、「Chandelier」における長い夜がついに明けたことを示しているようにも感じられる。
そしてついに、満を持して公開されたのが最新曲「Together」だ。これまでのミュージックビデオでは考えられないほどにカラフルなビジュアルが印象的な本楽曲は、自身が初めて監督を務めるミュージカル映画『Music』の主題歌的位置付けとなっている。ケイト・ハドソンやマディー・ジーグラーを迎えて制作されたこの映画は、“Finding your voice and creating family(自らの声を見つけること、そして家族の絆を築くこと)”をテーマに据えており、もう間もなく公開が発表されるであろう。本ミュージックビデオもこの映画の一部が使用されている。
「Together」はかつてないほどポジティブな楽曲だ。〈Oh, Together, we can take it higher(一緒なら、もっと元気になれる)〉と繰り返し歌われる本楽曲の中で、シーアは闇を抱える人々に対して優しく手を差し出し、虹色に輝く世界へと共に向かっていく。〈You can't love me unless you love you too.(私を愛するまえに、自分も愛さないと)〉、"Come now set the past on fire/Stand up raise your face to the sky, my love(さあ、過去は燃やしてしまおう/立ち上がって空を見上げるのよ)〉というフレーズが示す通り、この楽曲は何より過去のシーア自身に向けられたものであろう。「Together」はかつて自己嫌悪やアルコールとドラッグによる現実逃避などの闇に苦しんでいた自分自身を救おうとしている。ついにシーアは自らを肯定できるようになった。
実は「Together」自体は2018年の時点で存在しており、ミュージックビデオと映画についても同年にすでに撮影済みでほとんど完成している状態だったのが、続報のない状態が続いていた。もしかしたら、この方向性に対する迷いがあったのかもしれない。代わりに同年に発表されたのは前述の「I'm in Here」への回答とも呼べる「I'm Still Here」という楽曲である。この楽曲でシーアは闇に苦しみ自殺願望を抱く過去の自分の姿を振り返りながら、〈But the battle was lost/‘cos I’m still here. (だけど戦いは終わった/私はまだここにいる)〉と告げる。恐らく、「Together」を世に出す前に一度、自らの過去と向き合う必要があったのだろう。そしてそれは成功したのだ。
その背景には、2010年代後半に実施された様々なコラボレーション活動があるかもしれない。Diplo、LavirinthとのグループであるLSDでの活動や、ドリー・パートンとの「Here I Am」といった、単なる裏方仕事ではない有機的なコラボレーションによって、シーアはより自己肯定を高めることができたのではないだろうか。これまではプロデューサーのグレッグ・カースティンとの共同作業が多かった楽曲制作だが、前述の「Saved My Life」では、今や2020年を代表するポップスターとなったデュア・リパが作曲に参加しており、より外部との繋がりを重視するようになったことが分かる。
2020年中には公開されるであろう映画『Music』はこれまでのシーアのキャリアの集大成と呼べる創作物になるはずだ。その映画を象徴し、かつてないほど自己肯定に満ちたカラフルな「Together」は、これまで長く闇の中にいたシーアが、今、人生において最もポジティブな時期を迎え、同時に一つの到達点=“光”に辿り着いたことを示しているのである。
■ノイ村
92年生まれ。普段は一般企業に務めつつ、主に海外のポップ/ダンスミュージックについてnoteやSNSで発信中。
シーン全体を俯瞰する視点などが評価され、2019年よりライターとしての活動を開始
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Twitter : @neu_mura
■リリース情報
「Together」
2020年5月20日(水)配信
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