上白石萌音が表現する“多様性を認め合う優しさ” 温かなバラード「夜明けをくちずさめたら」を聴いて

 同曲の世界観にぴったりのMVは、「夜」「朝」にちなんだ写真・動画・イラストなどを募集した企画「#萌音とくちずさめたら」に集められた素材から選ばれ、編集されたもの。人々のふれあいやつながり、目には見えない愛や優しさがあふれている。

 合間には、レコーディングブースで歌う上白石の表情が映し出されるカットも。マイクに向かう凛とした姿勢に、楽曲に対する真摯な想いが伝わる。曲のラストで見せる、ほっとしたような、ほんの少しの微笑みが印象的だ。まだ22歳の心のうちを、わずかに覗けたような気がした。

 また、5月16日には『Sound Inn “S”』(BS-TBS)の公式YouTubeチャンネルにて、上白石のリモート収録ライブが配信された。楽曲は、数多の歌手がカバーしてきた松田聖子の名曲「瑠璃色の地球」。同曲について上白石は「今のために書いたのではないかと思うくらい、今、かけて欲しい言葉が詰まっている」「多くの人に届けたい」と語った。

上白石萌音 ♪瑠璃色の地球 ~ Sound Inn S @HOME Ver. ~

 ミュージシャンがそれぞれの自宅から楽器を奏で、音を重ねてゆくリモートライブ。別々の場所にいても、心はひとつ。「夜明けをくちずさめたら」にもどこか通ずるような、彼女の想いがこもった選曲だった。

 上白石の持ち味である、癖のない歌唱と澄みきった声。ささやき、話しかけるような歌声もしっかりと響かせ、深みがある。滑舌がよく、言葉のひとつひとつを大切に歌うから、彼女の歌はストレートに心まで届く。アレンジを加えない実直な歌唱には、松田聖子へのリスペクトも感じられた。この時代、この若さで、こんなにもまっすぐ歌える人がいるのかと、彼女の歌声を聴くたびに驚かされる。

 ひとりの人間としての彼女のぬくもりや強さ、そして誠実さが、歌声に表れている。彼女の歌声が優しいのは、彼女が優しいから。彼女の声が美しいのは、彼女が美しいからなのだろう。澄みきった、その宝物の声で、彼女は歌詞に想いをのせる。まるでセリフを語るように、音楽というストーリーを描く。

 「女優が歌う意味」を、今これ以上なく体現している人。それが、上白石萌音である。

■新 亜希子
アラサー&未経験でライターに転身した元医療従事者。音楽・映画メディアを中心に、インタビュー記事・コラムを執筆。
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