ヒゲダン、ミセス、マカロニえんぴつ……親しみやすさの背後に光るスパイスが効いた音作り 各バンド最新作を分析
4月9日、Official髭男dism(以下、ヒゲダン)が新曲「パラボラ」をリリースした。2月リリースの「I LOVE...」以来、2カ月ぶりとなるシングルで、「カルピスウォーター」CMソングでもある。ベタベタの歌謡的メロディやアレンジ(今回のイントロなんか冗談みたいだ)を挟み込みつつも、緩急の自在なメロディを歌い上げる藤原聡のボーカルと、現代的なプロダクションテクニックが楽曲の説得力を裏打ちしている。細部に今っぽさを仕込むと、妙にあざとくなったり、あるいは最終的なミックスやマスタリングのバランスのせいで残念な結果になったりすることが多々あるが、ヒゲダンはそのあたりでがっかりすることが少ないのも頼もしい。
また、以前書いた「I LOVE...」評でもややトリッキーな構成について指摘したが、「パラボラ」でも同じようなことが言える。全体から独立したパートが2つも入っている「I LOVE...」と比べれば控えめだが、〈まっさらなノートの上……〉から〈……インクに浸した心で〉までのいわばBメロはこの後楽曲に出てこない。しかし、「パラボラ」全体をひとつの物語のように捉えた場合、気分の転換を司る重要な蝶番のような役割を果たしている。最初のAメロが、新生活にどこか落ち着かなさを覚えている、ちょっとふわっとした内容であるのに対して、最初のサビに向かって心機一転するBメロを経由して、未来に向かって歩き出すポジティブな決意の歌になる。ビートも少しゆったりめの4つ打ちに転換し、着実に前進していくニュアンスが楽曲全体に満ちていく。
という具合に、ストーリーテリングと作編曲ががっぷり組み合っているのがヒゲダンの最大の魅力だろう。きれいにお話を組み立てるだけではなく、道筋を歪めたり、寄り道したりする変化球が特に光る。
4月10日にリリースされたMrs. GREEN APPLE(以下、ミセス)「Present (English ver.)」も、躍進を続けるバンドのポップチューンとして興味深く、かつヒゲダンとは好対照な要素が多い。ヒゲダンが歌謡~J-POPの要素を意図的に蘇らせて躍進している一方で、ミセスはどちらかというと2000年代以降の邦ロックからの地続き感がある。明るく華やかなギターロックのサウンドを、オーケストラルなアレンジであったりEDM的な意匠を重ねてブラッシュアップしてきた、という印象だ。
ヒゲダンのストーリーテリング重視に対しても、ミセスはもっとサウンドの快楽寄りであると言えるかもしれない。曲調はバラエティに富み、そのバラエティがミセスの面白いところで、「Present」はざっくり言えばEDM路線に振ったタイプの楽曲だ。ギターなどのバンド的なサウンドは希薄で、3分半のコンパクトな尺に、シンセスタブやオートチューンのかかったコーラスなど、エレクトロニックなサウンドを散りばめたプロダクションに、なぜかフックが13拍(拍子でいえばおそらく7拍子+6拍子)単位の変則的な構成。シンプルだが絶妙に意外性のあるこのギミックが、平板になりがちなEDM系のサウンドに程よいアクセントになっている。とはいえ個人的には、「Present」の手堅さよりは、昨年リリースのアルバム『Attitude』収録曲に聞かれる過剰なまでの折衷性やバンドならではのダイナミズムを推したいところではある。