HKT48、『配信限定公演~chain of love~』で届けた希望 これからの成長も予感させたメンバーの姿

 ひまわり組を始め、HKT48研究生、チームKⅣ、チームTⅡで構成された全6公演、特筆すべきは30日に行われたチームTⅡの月足天音卒業公演だろう。本来であればファンを目の前にしラストステージとなるはずだったが、やむを得ず画面越しの卒業式となった。

 この日は開演前の影アナも月足が担当。声は少しばかり震えているようだったが、「最後までちゃんと見届けてください」の言葉には一段と熱がこもっていた。オープニングの「キスは待つしかないのでしょうか?」で舞台に現れたメンバーの瞳は潤み、終わりへのカウントダウンが刻一刻と迫っていることを感じさせる。間奏のセリフを「あのぅ…、すいません…今までありがとうございました!」と言い換えた場面では、すでに持ちこたえられなかったようで月足の目からは静かに雫が溢れていた。YouTubeの欄には「泣くな 天音」「あまね 早いぞ」と激励の声が届く。しかし、早すぎるのも無理はない。ファンはあの日、たしかにあの会場にいたのだから。

 「Overture」で映し出された座席に並んでいたのは、月足の卒業を祝う言葉の数々。ファンが祝福コメントを集め印刷し、スタッフがひとつひとつの席に貼っていったという。これがサプライズで行われたのだから、こみ上げてくるものに抗えなかったのも当然だろう。顔文字や言葉遣いにはファンそれぞれの色がにじみ、「HKT48が好き」という思いだけでいろんな人が集まるいつもの劇場そのものだった。

 本編を「僕らの風」でスタートすると、「手をつなぎながら」「チャイムはLOVE SONG」と続いていく。パフォーマンス中に月足と目が合うと4期生は瞬殺。研究生の頃から苦しい時も楽しい時も越えて、築いていた絆があることを強く感じさせた。MCでは、それぞれが月足との思い出を語る。出だしの山内から言葉はすでに震わせ、受け取る月足も何度も唇を噛みしめていた。

 ユニットステージを挟み、ラストソングの「大好き」へ。〈大好きなの あなたのこと〉というリリックは、月足を中心にそれぞれの思いを乗せ会場に響く。“会いに行けるアイドル”が“会えないアイドル”として約1カ月を過ごしたからこその説得力が、ステージには存在していた。「また明日会いたい」と願っていても、叶わない日が来るということ。夢に見るまで会いたいと思うことが、いかに切ないかということ。大好きな人に大好きと伝えられる今日が、どんなにも尊いかということ。図らずも突きつけられた現実が、彼女たちの動作や表情のひとつひとつを洗練させていた。

 本来であれば一般公開は本編で終了なのだが、今回は特別にアフターステージも配信。尾崎支配人の口上を指揮に、メンバーの「天音」コールが劇場に響く。クールなナンバーの「ロープの友情」で幕を開けると、「火曜日の夜、水曜日の朝」では妖艶なオーラを放つ。

 ひと際、オーディエンスの涙を誘ったのは4期生で披露された「白線の内側で」と「さくらんぼを結べるか?」だ。チームTⅡでない豊永阿紀、運上弘菜、地頭江音々も駆け付け、10人でのステージング。約4年の月日が育てた結束力は固く、曲の最中にメンバーは何度も天を仰いだ。MCでは感情のダムが決壊したようで、カワイイを保つ余裕がないくらいボロボロに。珍しくグチャグチャになった自分たちを笑いあう姿は、どこにでもいる少女だった。普通の女の子がアイドルという誇りを背負い仲間たちと高めあってきたのだと、キラキラしたものの奥底に揺るがない強さを感じた瞬間だった。

 月足のメモリアルムービーを経て、彼女からファンへのメッセージを読み上げられる。「もっと自慢の推しになれるように頑張ります」と口にする姿は凛としていて、真っ直ぐに未来を見つめていた。ラストソングに選ばれたのは、「遠くにいても」。歌声は感情に導かれるまま震え、本当に最期なのだという実感をより強くさせる。〈遠くにいても 空は続いてる〉と真っすぐ伸びた指先は、月足天音、そしてHKT48の未来を一直線に照らしているようだった。

 『月足天音卒業公演』を含む、『配信限定公演~chain of love~』は温かい空気に包まれ終幕となった。この7日間の配信公演で観たのは、自粛という自由が限られた世界に対する絶望ではなく、限られた世界でもできることはあるという希望だったのではないだろうか。事実、彼女たちは同じ場所にいないファンと心を通じ合わせていた。一緒に笑い、一緒に泣き、ひとつの時間を作りだしていた。また、ファンと会えないという現実が「ちゃんと伝えたい」「会える時間が幸せだった」と、彼女たちをより成長させたのも真実だったように思う。

 この状況に対して、尾崎支配人は「神様が我々に変化を求めているのかもしれない」と話していたが、だったら変わっていけばいい。いつだって新しいことや時代を動かすことは、制約や逆境のなかで生まれていくもの。夢とは力を合わせ、明日へ運ぶものなのだから。『配信限定公演~chain of love~』をやり遂げたHKT48に、革命の先頭を走っていって欲しいと願わんばかりだ。

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