SNSで広がる「#うたつなぎ」、十三月による動画「#WASH 」……外出自粛期間に生まれたアーティストの自発的アクション

GEZAN『狂(KLUE)』

 一方で困窮するライブハウスやクラブの声を発信する動きもでてきている。次に紹介する「#WASH」は、GEZANの主宰するレーベル・十三月が投稿した動画のことだ。4月5日に公開された動画「#WASH (1)」では、マヒトゥ・ザ・ピーポー(Vo/Gt)がライブハウス関係者へのインタビューを実施。ライブの延期や中止が相次ぐ状態がいつ終わるのかさえ分からない状態のなか、現場の人たちが何を思っているのか、そのリアルな声が収められている。30分程度の動画なのでぜひ全編見てみてほしい。

#WASH (1)

 動画では、ライブハウスシーンの非常に厳しい現状が語られている。また、苦境のなかでも素晴らしい曲を作っているであろうアーティストのことを信じたうえで、彼らの表現の場(=ライブハウス)を守りたいという思いを抱きつつも、自分がそういう思いを抱くことさえ不謹慎にあたるのではないか、と葛藤するライブハウス店長と、不謹慎ではないと断言するマヒトゥ・ザ・ピーポーがいる。

 この動画の2日後、4月7日には翌8日からの緊急事態宣言が発令された。小池百合子都知事の記者会見によると、ライブハウスをはじめとした「集会や展示に関する施設」は基本的に休業を要請する方針で、今後の対応については国と協議して決定するとのことだ。とはいえ、そこで働く人がいる以上、補償なしの自粛には限界があり、このままでは厳しいと、連帯して声を上げることがますます必要になっていくだろう。

 動画「#WASH (1)」は宇川直宏(DOMMUNE)のこんな言葉で締め括られている。

「体験軸が2つになったというか。だから3週間でだよ。すごくない?」

 ライブシーンでは、これまで、現地に足を運び、生の音を浴びることこそが素晴らしいものだと語られてきた。しかし今回、そういった体験が叶わない状況になった結果、ライブ配信文化はこれまでにない盛り上がりを見せている。これを機に、ライブ配信周りのシステム・環境は整っていくだろうし、配信の母数自体が増えれば、市場競争原理が働くため、コンテンツのクオリティも底上げされていくだろう。それにより、ライブハウスに足を運ぶことの価値が下がるのかと言うと、そういうことではない。生には生の良さがあるし、配信には配信の良さがある。そのことは、今現在ライブ配信を楽しんでいるユーザー自身が一番理解しているのではないだろうか。

 未知の疫病は我々の生活を大きく変えてしまった。しかし、アーティストや業界で働く人たちの自発的なアクションにより、将来的に音楽シーンがもっと楽しくなる、面白くなるためのヒントもあるはずだ。

■蜂須賀ちなみ
1992年生まれ。横浜市出身。学生時代に「音楽と人」へ寄稿したことをきっかけに、フリーランスのライターとして活動を開始。「リアルサウンド」「ROCKIN’ON JAPAN」「Skream!」「SPICE」などで執筆中。

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