『衝動人間倶楽部』インタビュー

アユニ・D×田渕ひさ子×松隈ケンタが語る、PEDROに起こった変化ーー“音楽“がアユニの居場所になった理由

 BiSHのアユニ・Dによるソロバンドプロジェクト、PEDROが4月29日にEP『衝動人間倶楽部』をリリースする。

 筆者は2018年の初ライブから目撃してきた人間なのだが、痛感しているのはアユニ・Dの大きな変化とミュージシャンとしての成長だ。サポートメンバーに迎えた田渕ひさ子(Gt)との出会いを経て、大袈裟じゃなく「音楽の中に自分の居場所を見つけた」という感じなのだと思う。そして、昨年8月にリリースした1stアルバム『THUMB SUCKER』と全国ツアー『DOG IN CLASSROOM TOUR』を経て、PEDRO自体も「BiSHのメンバーソロ企画」というよりは「バンド」としての躍動感を持ち始めている。

 一体PEDROに、アユニ・Dに何が起こっているのか。松隈ケンタ、田渕ひさ子、アユニ・Dの3人に話を聞いた。後半で語ってもらっているBiSHとNUMBER GIRLそれぞれの「無観客ライブ」当事者としての感想も含め、とても貴重なテキストになったのではないかと思う。(柴 那典)

PEDRO始動でアユニ・Dに何が?「もっとひさ子さんのことを知りたいと思って」

左から)松隈ケンタ、アユニ・D、田渕ひさ子

――まずアユニ・Dさんにお伺いしたいんですが、昨年アルバム『THUMB SUCKER』をリリースして、全国ツアー『DOG IN CLASSROOM TOUR』を廻ったあたりから、徐々にバンドとしての意識が変わってきたところがあるんじゃないかと思うんです。そのあたりの実感って、どうでしょうか。

アユニ:ツアーを廻ったことで、PEDROがやっと始まったという実感はすごくありました。最初ミニアルバムの『zoozoosea』を出して1stライブを開催した後には、すっかりライブがなくなってしまったので。最初はライブがすごく怖かったんですけど、『THUMB SUCKER』を出して、ワンマンライブでツアーをまわってから、ライブごとに悔しさや壁も見つかったんですけど、そのぶん快感や気持ちよさ、楽しかったことも実感して。もっともっとライブをやりたいし場数を踏みたいと思いました。

――松隈さんはBiSHにオーディションで加わったときからずっとアユニさんを見てきたわけですよね。

松隈:そうですね。

――PEDROが始まったことでアユニさん自身が大きく変わったんじゃないかと思うんですが、そのあたりはどう見ていますか?

松隈:本当にそうですね。アユニが変わったことはBiSHにも表れてます。『THUMB SUCKER』を出したくらいからPEDROが本格始動して、音楽的にも、アユニ・Dというキャラクター自体も確立されてきた。本人の前で言うのもあれなんですが、実は、最初にWACKにアユニ・Dが入ってきた時って「過去最高にこの子はどう料理していいかわからない」って思ったんですよ。確か最初のレコーディングがBiSHのアルバムを録っている時で。

アユニ:あれですね。緊張しすぎてずっと声が震えてて。

松隈:そうそうそう(笑)。

アユニ:「震わせてるのか?」って言われたんですけど、震えちゃうんですよ。

松隈:宇宙人みたいな声で、下手ではないけれど、いい意味でも悪い意味でも個性的すぎて、どう料理したらいいかわからないなって。そう思っていたのが3年ぐらい前で、そこから吸収力もすごいし成長も早いので、見ていて面白いです。

――松隈さんとアユニさんで音楽の会話も増えました?

松隈:BiSHの時はそんなにメンバーと音楽的な難しい話はしないんです。だけどPEDROはベースも弾いていますし、かなり音楽的な話はするようにはなったと思います。本人がどんどん音楽に詳しくなっているんです。自分で好きなバンドを掘るようになって。もとはといえば僕が布袋寅泰さんを教えたんです(笑)。

アユニ:そうですね。

松隈:BiSHのレコーディングで「アユニをどう活かしたらいいかな?」と思ったときに、「布袋さんみたいに歌って」って言ったら、それが上手くいって。それでスタジオにあったDVDを渡して「持って帰って勉強しろ」って言ったんですよ。それがアユニにとってのロックとの出会いです(笑)。

アユニ:それからはBiSHのレコーディングで松隈さんからディレクションしてもらう時に、布袋さんの歌い方を意識しています。全然似てはいないんですけど。

松隈:そうなんです。そこから今のアユニ・Dになったんですよ。それぐらいから(アユニの)場所が見つかったと思って。ベースも始めていたので、ロックのビートの感じ方を教えてたんですけど、自分でどんどんコアな洋楽も聴きだして。周りのスタッフもついていけないレベルまで音楽好きになってます。

――アユニさんとしても、PEDROが始まってから音楽が好きになったという感覚が大きくなった?

アユニ:はい、そうですね。ほんとに1stライブまでは自分のことで精一杯で、その時もひさ子さんにギター弾いていただいたんですけど、エイベックスの人から「日本で一番キレのある女性ギタリストだよ」って言われて、勝手に怖い方なのかなって思っていたんです。ライブ映像を観ても、日本刀みたいなギターを弾いていらっしゃるから。でも、1stライブが終わってから気持ちに余裕ができて、もっとひさ子さんのことを知りたいと思って。そこから、ほんとに自分の中の何かが動き出した。確実に音楽がすごく好きになりましたね。

――田渕さんとの出会いがアユニさんの扉を開けた?

アユニ:そうです。あとは音楽だけじゃなくて人間性にも惹かれて。ひさ子さんのルーツになった音楽も聴きたいと思って、そこからいろんなものを聴くようになりました。

――田渕さんにも振り返っていただければと思うんですけれども。1stライブからツアーを経て、バンドの感じはどんな風に変わっていきましたか?

田渕:最初の方は何カ月かに一度会ってライブして、という感じだったんですけれど、その後はリハに何回か入ってツアーを一緒に廻って。会話が増えるごとに演奏もギュッと詰まってくるというか。「バンドを始めた!」って感じです。会話が増えて、演奏も固まって、バンドが成長していってる、みたいな。会話もないとアイコンタクトもよそよそしいけど、いろいろ話せるようになってくると、目を合わせてニヤッとしたりするのも自然にできるようになるというか。

――アユニさんはそういうのも初めての感覚だった?

アユニ:そうですね。グルーヴとか空気感というのも、それがどういうものかがわからなかったんですが、PEDROをやってから、徐々にわかってきた気がします。

松隈:BiSHは曲のテンポがライブによって変わったり、終わり方をCDと変えたりすることは絶対にないので。そういうバンドの演奏に最初の頃は苦戦してましたね。バックバンドがいればやってくれますけど、PEDROはアユニが引っ張んないといけないんで。

――松隈さんから見たアユニさんの成長ってどんなところにありますか?

松隈:やっぱり、ステージに立った時にものすごくピリッとするんですよ。リハーサルとはだいぶ違います(笑)。田渕さんは長年ライブをやられてるので、勘がものすごいし、ドラムの毛利(匠太)も若いのにどんどん成長しているので、3人がバシッと揃う時があるんですね。リハーサルでもアユニが引っ張ってる瞬間が100回に1回ぐらいある。そこはゾクッとしますね。これが100回の中で全部になったら、無茶苦茶かっこいいなって思います。

――少なくとも、PEDROって最初は一回限りの企画なのかずっと続くバンドなのか、正直よくわからなかったところがあったんです。でも、今は田渕さんのスケジュールとかBiSHとの兼ね合いとか、いろいろあるけれど、少なくともバンドとして続いていくビジョンがあるんじゃないかと。そのあたりはどうですか?

松隈:おっしゃる通りです。最初はスタッフも僕も手探りで。でもツアーで変わりましたね。福岡の時にラーメン屋で打ち上げをしたあたりから、みんなもだんだん打ち解けてきて。

アユニ:そうですね……(笑)。

松隈:こういう企画で始まるバンドって、ライブやレコーディングが終わったら会う機会も減るし、なかなか仲良くなれないこともあるんですよ。でもPEDROはツアーが終わったときに、次に集まれるのかはわからないけど、また次一緒に演奏したいという空気感がアユニにあったんですよね。単発のプロジェクトでもバンドでもなく、目の前のいいライブを成功させてまた次に繋げましょうっていうチーム感が出てきているような気がします。

――アユニさんはどうでしょう? この先のPEDROについて。

アユニ:ツアーが実現できて、そこからもっと皆さんと演奏したい欲求が出てきて、今はPEDROを続けていきたいと思っています。ただ、ひさ子さんに関してはこっちからお願いしている側なので、たまに「田渕ひさ子(NUMBER GIRL/PEDRO)」みたいに紹介されているのを読むと、それが申し訳なくなります。恐れ多いなあ……って(笑)。

――田渕さんとしてはどうですか? ツアーを経てPEDROとの関係性はどう変わりました?

田渕:最初のライブは、レコーディングされた音源を弾いてくださいというお話だったんです。でも、そのあとはアルバムの制作から参加していて、ギターの技術的にももっと踏み込んでかなり頑張っています。なので(自分にとっても)大きい存在だし、最初の頃との関係性と今では全然違います。

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