The Weeknd、Childish Gambinoが示したポップミュージックのさらなる高み 原点回帰でたどり着いた“新境地”
3月20日からの3連休は音楽好きにとって忙しい週末となった。The Weekndの新作『After Hours』、3月22日にChildish Gambinoの新作『3.15.20』と、トップアーティストによる待望のニューアルバムが立て続けにリリースされたのである。様々なアーティストとコラボレーションを果たしながら、それでいてトレンドには乗り切らずオリジナルを探求するという独自の立ち位置を築き、それでいて常に大衆を沸かせ続ける彼ら。本稿ではその新譜それぞれについて解説していきたいと思う。
電子音楽とオルタナティブR&Bの融合に戻ってきたThe Weeknd
The Weekndが2016年にリリースした『Starboy』は、トラップを基軸としたビートとアメコミのような意匠によって、自身のオルタナティブR&Bの音楽性をポップアートとして昇華させた一作だった。あれから4年が経ち、ポップスターとしての立ち位置を確立したかのように見えた彼は、〈Take off my disguise/I'm living someone else's life(私の変装を取り払ってくれ/自分ではない誰かの人生を生きているみたいだ)〉(「Alone Again」)という言葉で『After Hours』の世界を紡ぎ始める。
その言葉が示すように、本作の音楽性は『Starboy』のサウンドからは相当に距離を置いており、2018年にリリースしたEP『My Dear Melancholy,』からさらに電子音を基調としたビートへの探求を深めたものとなっている。アルバム前半は特にその傾向が強く、「Too Late」におけるUKガラージや「Hardest To Love」のドラムンベースなど、どこまでも沈み込みながら加速するビートに退廃的な歌詞と歌声が絡んでいき、とてつもなく気持ちが良い。
これまでDaft PunkやSkrillex等が名を連ねてきた外部プロデューサーを招いた音作りについても、今作では旧作とは異なるアプローチが取られている。「Scared To Live」では自身の伸びやかな歌声を活かした壮大なバラードを披露しており、一聴するとスタンダードな名曲のように感じられるが、実は本楽曲には著名プロデューサーのマックス・マーティンに加え、電子音楽界を代表する鬼才・Oneohtrix Point Neverが参加している。細部に仕込まれたどこかチープで奇妙なシンセサイザーのフレーズ等からその要素を感じ取ることができるだろう。他の楽曲でも同様に細かい音色の仕掛けが大量に仕込まれており、そのようなサウンド作りが本作の中毒性を更に高いものに引き上げている。
今作での電子音楽とオルタナティブR&Bを融合したサウンドは、「House of Ballons」を筆頭としたデビューミックステープ3部作=『Trilogy』期に積極的に行われていた取り組みであり、『After Hours』に寄せられる“原点回帰”という評価の理由でもある。この背景にあるのは、前作アルバム『Starboy』の成功であろう。同作でDaft Punkやラナ・デル・デイ、Futureを招き、トラップ時代のポップミュージックをやり切った彼は、自身の"もう一つの"ルーツである電子音楽へ改めて挑むことにしたのではないだろうか。『My Dear Melancholy,』での取り組みを進化させ、新たなビジョンを提示した本作で、また彼は新たなる高みに到達したように思える。