平井堅×あいみょん「怪物さん」が描く“闇の向こう”の希望 両者にとっても新しさが見える楽曲に

 という流れでの今回のあいみょんである。2017年、平井堅が自身のラジオ番組で気になるアーティストとしてあいみょんを紹介したのがきっかけとなり、2019年の『Ken’s Bar』20周年ツアーの武道館公演に彼女を招いて「鍵穴」(平井堅)、「愛を伝えたいだとか」(あいみょん)をデュエット、お返しに『AIMYON vs TOUR 2019 “ラブ・コール”』と題したその年のあいみょんのツアー仙台公演の対バン相手にに平井堅を招くという蜜月の末、現在に至る。それにしても、デュエット曲「鍵穴」はあいみょんが好きな曲とのことだが(参照:平井堅の“これから”がさらに楽しみに 亀田誠治、あいみょん登場『Ken’s Bar』20周年ファイナル)、この楽曲をチョイスするとは「おぬし、やるのう」という感じである。

 「鍵穴」で描かれるエロスの世界は、おそらく平井堅の美学の中では孤独と闇のすぐ隣にある。そしてあいみょんが描く世界観とも互いに通じ合うものがあるだろうことはなんとなく想像がつく。今回のコラボにあたり、平井堅は「彼女のカラッとした媚びない色気が伝わればうれしいです。バカになりきれない女のやるせなさを歌にしました。僕なりの女性賛歌です」というコメントを寄せている。「完全に彼女をイメージして書いた」という発言からも、平井堅のあいみょんに対する想いが伝わってくる。

 そろそろ楽曲について触れよう。タイトルは「怪物さん feat.あいみょん」だ。作詞作曲は平井堅、アレンジはトオミヨウ。序盤から聴こえてくるのは、警告音のような無機的なループ。すかさず飛び込むベースラインはとことんファンキーでストイック、その上に乗るあいみょんのボーカルも実にクールで挑発的だ。〈私をそこらの女と同じ様に扱ってよ〉という歌詞。普通は「扱わないでよ」じゃないのか? というレトリックが軽いジャブのようにヒットする、スリリングなオープニング。続いては平井堅のラインだが、あいみょんよりもハイトーンゆえにどこか儚げな印象を与えるのが、通常の男女デュエットと逆転したようで面白い。さらに面白いのがその後のユニゾンとハモリのパートで、オートチューンをかけた完全モダンなファンク/R&Bスタイルになっていて驚く。しかも歌う言葉が〈いなくなれ〉〈消えてしまえ〉〈あなたを好きな私〉だ。それからワンフレーズごとの掛け合いでスピードを上げ、〈こんな私、いなくなれ〉でぴしゃりとドアが閉まる。

 全編を通して裏腹言葉と反転表現の連発なので、言葉は平易だがちょっと難解と見せかけて、それでもわかりやすく、言いたいことはちゃんと伝わってくる。好き、嫌い、ふさわしい、ふさわしくない、知りたい、わからない、恋の渦の中の堂々巡り。まさに「バカになりきれない女のやるせなさ」だ。よく考えると、そんな歌を「あいみょんをイメージして書きました」と言う平井堅もすごいが、喜んで演じ切るあいみょんも、この曲が「女性賛歌」だというのもすごい。ラストの一行(ここには書かないのでお確かめあれ)はまぎれもなくハッピーエンドの匂いがする。これまで平井堅が好んできた孤独と闇の世界の向こうに喜びと希望が見える気がする。それは他ならぬあいみょんの存在がそうさせたのだろう。新進気鋭、強い生命力に溢れたあいみょんの歌が、平井堅の思惑を突き破っているような気さえする。

 つまり、コラボレーションの本来の意味「協力」「共作」がここにはある。クールなファンクビートに乗ったあいみょんなんて他ではなかなか聴けないし、デュエットの相手にここまで攻め込まれる平井堅もめったに聴けない。どちらのファンにも新しい1曲であることを保証しよう。それにしても「怪物さん」というタイトルはぶっとびすぎだと思う。

平井堅「怪物さん feat.あいみょん」

■配信情報
シングル「怪物さん feat.あいみょん」
3月27日(金)配信スタート 
Lyrics & Music : Ken Hirai
Sound Produce, Arrangement : Tomi Yo
配信リンクはこちら

■平井 堅楽曲ストリーミング配信サイト
Apple Music、LINE MUSIC、Spotifyなど、各配信サイトにて本日3月27 日(金)より順次配信スタート。
配信はこちら

平井堅 Official Website
平井 堅 公式Instagram
あいみょん Official Website

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