渋谷すばる、ライブで伝えた自らの音楽に対する決意 『二歳』ツアー幕張公演を振り返る

 彼自身の人生や生活、聴いてきたもの、見てきたものが直接的に反映されているのも、渋谷の音楽の魅力だ。「いろんな国を旅して、生活を……というか、旅をしてます」という言葉に導かれたのは、「なんにもないな」。アコースティックな響きを活かしたアレンジ、素朴なメロディライン、〈なんにもないな〉のリフレインとともに、アジアを旅する渋谷の姿がスクリーンに投影される。関ジャニ∞を脱退した後、彼が最初にやったことは海外旅行だった。人気グループの脱退に伴う喧噪、世間の関心から逃れ、様々な国を旅することが“なんにもない”自分を取り戻すきっかけになったことは想像に難くない。「なんにもない」という楽曲には、そのときに感じたことがそのまま反映されているのだろう。

 さらに「ちょっと前にいい感じになりそうだった女の歌をやります」というMCで客席をざわつかせた「Curry On」(「来ないで」同様、ラブソングかと思いきや、最後に笑えるオチが付くバラード)、壮大な潮流を感じさせるメロディが印象的だった未発表の新曲を挟み、ライブは後半へ。渋谷のブルースハープを軸にしたバンドセッションから「爆音」に突入し、会場の熱気をさらに上げていく。

 ライブの終盤では、渋谷自身のリアルな感情を描いた楽曲が続いた。“同じ道には進めなかったけど、それぞれの人生を全うしたい”という真摯な思いに溢れた「ベルトコンベアー」、守られていた状況を抜け出し、何もないまま進んでいく決意を刻んだ「ライオン」、〈これからは僕自身が敷いたレールを走ろう〉というフレーズが心に響く「TRAINとRAIN」。以前から決して言葉数が多いタイプではない渋谷だが、楽曲のなかでは驚くほど率直に自らの思いや決意を吐露している。“すべて音楽を通して発信したい”というスタンスを改めて示したことも、このツアーの大きな意義だったと思う。本編の最後は「生きる」。何があっても、すべてを受け止めて自由に生きたいという願いを放つ渋谷に対し、観客はこの日もっとも大きな拍手と声援を送った。

 再びステージに登場した渋谷は、オーディエンスに向かってゆっくりと話しかけた。

「一人になって、1stアルバムを出して、初めてのツアーの1日目で。このライブは自分の人生というか、印象的なライブになると思います。そんな時間をみなさんと共有できてよかったです」「ありがとうございました。またやりましょう」

 さらに弾き語りで「キミ」ーー愛する人(たち)に向けられたブルースであり、ラブソングでもあるーーを歌い上げ、ライブはエンディングを迎えた。

 最初のライブで自らの音楽スタイル、歌うことに対する決意をはっきりと見せつけた渋谷すばる。この日集まった観客は(おそらく)ほとんどが関ジャニ∞時代からのファンであり、今後、彼の音楽がどんなふうに広がるかは未知数。しかし、一人のミュージシャンとして彼はこの日、やりたいこと、やるべきことを表現し、力強いスタートを切ってみせた。これまでのキャリアとは関係なく、“この人が作る歌をこれからも聴いてみたい”という欲望をかき立てられる、きわめて魅力的なシンガー/ソングライターであることは間違いない。

■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。

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