藤川千愛、シンガーとしてのポテンシャルの高さ 可能性の幅を再確認した連続リリース4曲を振り返る
そして、第3弾「私にもそんな兄貴が」はストレートなフォークロックとなっている。他の曲よりキーは低めで、歌い方も荒々しいが、言葉の1つ1つを大切にメロディに乗せる歌の原点を感じさせてくれる。また、歌詞は最近までチャック・ベリーを知らなかったという彼女が「もしも私に洋楽を教えてくれる兄貴がいたら、今頃どんな歌を唄ってたかな」という妄想を炸裂させた内容となっている。「父親の影響で生まれた時からビートルズを聴いてました」と言ってみたかったという思いは、音楽好きであればきっと誰もが一度は想像したことがあるだろう。だが、彼女の場合は、いちリスナーとして、祖父が演歌歌手という音楽家の家系で良かったと感じている。そうでなかれば、彼女の魅力の1つと言える「おまじない」の〈ラッタタ〉というフレーズでの巻き舌による歌い方や、この曲での「ぅ〜ロック」という、演歌や民謡をルーツに感じる独特の節回しとリズムの取り方は育たなかっただろうから。
ロックバラード、ジャズ、フォークときて、最後となる第4弾「あなたを嫌いになれました」はダークなムードのピアノバラード。嘘をつくあなたを“少しだけ”嫌いになれたと語る失恋ソングで、心にそっと触れてくるように歌っている。ため息のようなローから、優しく空へと駆け上がるハイ、そして、柔らかいファルセットまで。しなやかでハスキーで、艶っぽいのに柔らかさもある。ダイナミックに歌い上げるのではなく、慎ましやかな歌唱法で、本物のプロフェッショナルのシンガーとしての彼女の存在感がリアルに伝わってくる楽曲となっている。ただ巧いだけではなく、歌心にもあふれており、エモーションもしっかりと込められているからこそ、聴き手は彼女の歌の中の主人公に自分を重ね、シンパシーという名の感情も抱いてしまうのではないかと思う。
誰でも音楽を発信できるようになった今だからこそ、プロフェッショナルのシンガーによる“巧い”歌を聴きたいという人はぜひ、生で彼女のパフォーマンスに触れてみて欲しい。彼女の安定感抜群の歌とともに気持ちの高まりが突き抜ける時の高揚感と言ったらない。3月には恵比寿リキッドルーム、6月にはLINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)でのワンマンライブが決定している。彼女の前にはまだまだ限りない可能性が広がっており、その歌声は聴き手の年齢や性別を決して選ぶものではない。
■永堀アツオ
フリーライター。音楽雑誌「音楽と人」「MyGirl」、ファッション雑誌「SPRiNG」「Steady」「FINEBOYS」などでレギュラー執筆中。「リスアニ!」「mini」「DIGA」「music UP’s」「7ぴあ」「エンタメステーション 」「CINRA」「barks」「EMTG」「mu-mo」「SPICE」「DeVIEW」などでも執筆。
■リリース情報
藤川千愛 2ndアルバム『愛はヘッドフォンから(仮)』
発売日:2020年4月8日(水)
収録楽曲:全13曲+Bonus Track
■ライブ情報
藤川千愛ライブツアー特別公演『Birthday Live 2020』
日程:2020年6月5日(金)
会場:LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
イープラスにて1月31日まで抽選先行予約受付中
■関連リンク
藤川千愛 オフィシャルサイト
藤川千愛 公式レーベルサイト
藤川千愛 公式ツイッター @fujikawachiai