テイラー・スウィフトはいかにして変化と成長を遂げてきたのか? ドキュメンタリー映画『ミス・アメリカーナ』を観て

 本来、自分の音楽を作っていたかっただけのテイラー・スウィフトはしかし、いつまでもお姫様でいられないことを徐々に悟っていく。体型を維持するために摂食障害を患っていたこと、SNSに投稿していたモデルなど華やかな友人関係は上辺だったことなどが、告白や映像で次々と明かされる様は、「スターの孤独」というありがちな説明で済ませるには、闇が深く、ヘヴィだ。

 最後のほうで、「やっと(精神年齢が)実年齢に追いついてきた」と認める場面があり、私は「あ、自分は幼いという自覚があったのか」と合点がいった。テネシーのナッシュヴィルで純粋培養され、いきなり世界的なスターになったテイラーは、世間がいかに簡単に手のひら返しをするのか、マスコミが無慈悲なのか知らなかったのだ、と。俳優やミュージシャンとの華やかなデート遍歴がだだ漏れだったのも、それによって反感を持たれることを想定できなかったから。幼馴染と食事をするシーンで、「子育てって“たまごっち”みたい」と言ってしまうテイラーだが、おとなしい優等生をやめる、と言い放ち、政治的な意見もはっきり口にする時代のリーダーの道を歩み出す。

テイラー・スウィフト『Lover』

 父親やマネージメントのチームの反対を押し切ってーーどちらも白髪の白人男性だーーパブリシストとおそるおそる「民主党支持」をSNSに投稿する場面は、この作品のハイライトだ。彼女の発言の効果は、若者の間で絶大である。テイラー・スウィフトの作戦はいつもストレートで、わかりやすい結果を招く。彼女を「金髪の可愛こちゃん」扱いするトランプ大統領やテレビ番組のホストたち、そしてカニエ夫妻が見誤っているのは、テイラーがストリーミング配信やチケット販売を手がける巨大企業を相手取って真っ向から交渉し、勝ってしまうほど大胆で頭が切れるアーティストであるという事実だ。アルバム『Lover』(2019年)収録の「Soon You’ll Get Better (feat. Dixie Chicks)」では、イラク戦争時にブッシュ元大統領の政策に反対して大バッシングを受けた大先輩のDixie Chicksもフィーチャーし、最近のビデオではあえて「蛇」を何回も出している。個人的にテイラー・スウィフトの好きなところは、自虐ができること。自分を笑い者にできない大スターが多い中、「共感」がより重要になっていく2020年代には、武器となる強みだと思う。ストレートな言葉で自分たちを代弁しつつ、自分の立ち位置も客観的に見られるテイラーは、SNSでどう発信し、どう見られるかが大きな関心事になっている現代においてひとつの答えであり、ロールモデルなのだ。最新ニュースで、人に曲を提供するソングライター業に力を入れる姿勢を示したテイラー。彼女がこのまま売れ続けるかどうかは、誰にもわからない。だが、プリンセスから脱皮しつつあるテイラー・スウィフトが、地に足の着いたアメリカを代表する女性になっていく様子がいましばらく関心を集め続けるのは、間違いない。

Taylor Swift – Soon You’ll Get Better (Official Audio) ft. Dixie Chicks

■池城美菜子 Twitter
絶滅危惧種の洋楽専門ライター/翻訳家、ときどき映画評。訳書『カニエ・ウェスト論』、『How To Rap』。著書『ニューヨーク・フーディー』、『まるごとジャマイカ体感ガイド』。www.kusege3.com



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