テイラー・スウィフトはいかにして変化と成長を遂げてきたのか? ドキュメンタリー映画『ミス・アメリカーナ』を観て

 まず、私が考える「テイラー・スウィフトとは何者なのか」問題から。テイラーとは、ディズニー・プリンセスから大人向けロマンス小説まで、脈々と流れるアメリカのヒロインの心情を、自分の言葉として曲にできる稀有な才能をもつシンガーソングライターである。『ミス・アメリカーナ』の元になった曲名は、「ミス・アメリカーナ&ザ・ハートブレイク・プリンス」。彼女の恋愛対象は、「王子様」だったことの証左だ。

Taylor Swift - Miss Americana & The Heartbreak Prince (Official Audio)

 テイラー・スウィフトは、二重の奇跡を体現してスターになった。ひとつめの奇跡は、女性なら誰しもが持つ恋心やお姫様願望を、びっくりするくらい率直にカントリーミュージックをベースにした聴きやすいメロディに乗せて奏でたこと。ふたつめは、そのアーティスト本人がお姫様然とした外見に恵まれていたこと。その奇跡が何十乗にもなって、魔法のような売上を記録したのだと私は思う。だから、最初の指数(乙女心)が低い人は魔法に引っかからなかったし、彼女の音楽が支持される理由が理解できなかったのだろう。

 その最たる例が、カニエ・ウェストだ。彼の執拗なまでのテイラーに対する攻撃は、彼女の音楽が自分より経済効果が高い事実を受け入れられないことから端を発する。乙女心指数が低く、音楽的には完全にカニエ派の筆者でも、2009年のMTVのビデオ・ミュージック・アワードでのテイラーの受賞スピーチ乱入事件は最悪だと思ったし、せっかく事が収まっていた2016年にわざわざ蒸し返した、「Famous」の歌詞とビデオの下劣さ、それにまつわるキム・カーダシアンのSNS攻撃は心が凍った。カニエはカニエで問題を抱え、乱入事件の余波が大きく、ひどい目に遭ったかもしれないが、そもそもテイラーは何もしていない。『ミス・アメリカーナ』では、乱入後、彼が去ったステージで、猫背でトロフィーを抱えて立ち尽くすテイラーの姿が何度も映される。「Famous」のリリース前に、「新曲で名前を出す」とテイラーに先に知らせたのは映像が残っている通り事実だろうが、「テイラーとまだセックスをしている気分だ(中略)あのビッチを有名にしてやった」というリリックを予め了諾するわけがないし、カニエもそのまま伝えてはいないだろう。

 もうひとつ指摘すると、妻のキムがTwitterでテイラーを、二面性や裏切り者を意味するスネーク(蛇)に例えた結果、SNSで#TaylerisOverParty(テイラーはオワコン)というハッシュタグが炎上した理由は、ヒップホップ的な極端な物言いに慣れている層と、そのまま受け取って眉をひそめる層がアメリカで混在しているからだと思う。この出来事は、ネイルサロンにも行けないほど、テイラーが引きこもる原因になったそうだ。

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