森朋之の「本日、フラゲ日!」vol.188
大原櫻子、BiS、NakamuraEmi、リーガルリリー……女性アーティストの最新作から読み解くメッセージ
生々しい感情を歌に昇華し、信頼できる仲間と一緒にパッケージし、求めてくれる(または拒絶される)リスナーに届けるという音楽活動の在り方をそのまま楽曲にした「BEST」、自己嫌悪に陥った状態で東京タワーを観に行き、そこで感じたことを刻み込んだ「東京タワー」。最初の2曲でいきなりガツンと食らい、思い切り心を揺さぶられるベストアルバム『NIPPONNO ONNAWO UTAU BEST2』。女性の気持ちをリアルに歌うシンガーソングライターとして強烈な支持を得ているNakamuraEmiだが、彼女の歌に込められた感情やメッセージはジェンダーを超え、普遍的なパワーを聴く者に与えてくれる。それを担保しているのは、言葉をリズムに乗せ、豊かな音楽として届けるセンスと技術と気合い。歌詞の強さに注目が集まるが、彼女は極めて優れたシンガーであり、音楽家なのだと思う。
1990年代のオルタナ、シューゲイザー、ブリットポップなどをルーツに持つ、儚さと鋭さを併せ持った音楽性によって徐々に評価を高めている3ピースバンド、リーガルリリーの1stフルアルバム『bedtime story』。映画『惡の華』の主題歌として制作されたシングル「ハナヒカリ」以外はすべて新曲となる本作は、これまでの集大成というよりも、今現在の表現が刻み込まれた作品となった。そのことを象徴しているのが、「1997」。メンバーのたかはしほのか(Vo/Gt/)、ゆきやま(Dr)の生まれ年を題名にしたこの曲は、〈私は私の世界の実験台 唯一許された人〉というフレーズなど、彼女たちの意思が強く刻まれている。既存の(日本の)バンドシーンに寄り添うのではなく、自分たちが出したい音、放ちたい言葉を追求し続ける姿勢は、きわめてロック的だ。
■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。