つんく♂や小室哲哉の流れを汲む存在に? ハロプロを支える音楽家・星部ショウのソングライティングを分析

 「高輪ゲートウェイ駅ができる頃には」は、星部がディレクターと浜松駅前の歩道橋で立ち話をした際、「高輪ゲートウェイって、中央フリーウェイみたいだよね」という話題になったことがキッカケとなって生まれた曲。そのため、荒井由実「中央フリーウェイ」の歌詞〈右に見える競馬場 左はビール工場〉のアンサーともいえる、〈右に泉岳寺 左に巨大な 折り紙の屋根〉という一節が入っていたり、Aメロのコード進行が同じだったりと遊び心に溢れている。また、〈ゲートウェイ ゲートウェイ 高輪ゲートウェイ〉のコーラス部分はポール・マッカートニー&スティーヴィー・ワンダーの「Ebony and Ivory」から引用したことを、本人が「Liner Notes」で明かしているが、それでいうとイントロのベルは、ポール・マッカートニー&ウィングスの「Let 'em In」から来ているのではないだろうか。こうした小ネタを随所にちりばめるのが、星部のソングライティングの魅力の一つである。

ポール・マッカートニー&スティーヴィー・ワンダーの「Ebony and Ivory」
ポール・マッカートニー&ウィングスの「Let 'em In」

 「眼鏡の男の子」と「恋愛奉行」では、最近だと米津玄師のトレードマークともいえる五音音階、いわゆる「ヨナヌキ音階」を用いてどこか懐かしい「和」な響きを醸し出している。ちなみに「眼鏡の男の子」のサビのマイナー進行は、スティーヴィー・ワンダーの代表曲で、星部のフェイバリットソングである「Part-Time Lover」から。元ネタよりもテンポを上げ、ビートを強調することでダンサブルに仕上げている。

BEYOOOOONDS『眼鏡の男の子』(BEYOOOOONDS [The boy with the glasses.])(Promotion Edit)

 個人的に本アルバム収録曲で最も好きなのは、「都営大江戸線の六本木駅で抱きしめて」だ。「明るく可愛く」、「YMOから派生したようなテクノポップ感」、「地下鉄・電車」をテーマに、矢野顕子「春咲小紅」やEPO「う、ふ、ふ、ふ、」をリファレンス曲にオーダーされたというこの曲は、Aメロ、Bメロ、サビとセクションが変わるごとに転調を繰り返すマジカルなコード進行、中でもサビへ向かう4小節の洗練された響きがたまらない。メロディは、なるべく少ない音で抑揚を抑え、その分サビの〈君を深く深く… 愛しているのよ〉でポーンとファルセットに飛ぶところが絶妙なアクセントになっているのだ。

 BEYOOOOONDS以外でも、例えばアンジュルムの「恋はアッチャアッチャ」ではボリウッドミュージックのイデオムを取り入れ、モーニング娘。の「恋のダンスサイト」や「ハッピーサマーウェディング」、ミニモニ。の「ミニモニ。ジャンケンぴょん!」あたりに通じる楽曲に仕上げたり、「明晩、ギャラクシー劇場で」では、「エッジの効いたビッグバンドサウンド」をテーマに大胆な転調を用いたり、ケレン味たっぷりの「つんく♂節」をしっかりと受け継いでいる。また、Juice=Juiceの「銀色のテレパシー」は、Aメロでリディアンスケールを用いてスペイシーな雰囲気を作り出しているが、サビ前のところでマイケル・ジャクソンの「Rock With You」をオマージュするなど、ここでも音楽好きをニヤリとさせる仕掛けを施しているのだ。

アンジュルム『恋はアッチャアッチャ』(ANGERME [Love is Accha Accha])(Promotion Edit)

 90年代J-POPや昭和歌謡、洋楽ヒット曲、ジャズ、民族音楽など古今東西、実に広範な音楽要素を分析・引用し、邦楽のフォーマットに落とし込んでいく星部ショウ。つんく♂や小室哲哉の流れを汲む彼のソングライティングスタイルが、今後どう進化していくのか非常に楽しみだ。

■黒田隆憲
ライター、カメラマン、DJ。90年代後半にロックバンドCOKEBERRYでメジャー・デビュー。山下達郎の『サンデー・ソングブック』で紹介され話題に。ライターとしては、スタジオワークの経験を活かし、楽器や機材に精通した文章に定評がある。2013年には、世界で唯一の「マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン公認カメラマン」として世界各地で撮影をおこなった。主な共著に『シューゲイザー・ディスクガイド』『ビートルズの遺伝子ディスクガイド』、著著に『プライベート・スタジオ作曲術』『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインこそはすべて』『メロディがひらめくとき』など。ブログFacebookTwitter

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