さなりのライブに感じた“現場”に人々を巻き込む力ーー『1st LIVE TOUR「SICKSTEEN」』BLITZ公演を振り返る


 続いて、さなりきってのヒップホップナンバーが続いた。Mサインのダンスが特徴的な「I AM ME」を皮切りに、次々にクールなラップで魅了していく。デビュー曲の「悪戯」で柔軟なフロウを発揮すると、「キングダム」で言葉の圧をグッと強めた。「Mayday」などポップな曲が注目されがちな彼だが、その性根はしっかりとラッパー。〈アイドルラッパーもしくはJ-POPスター I AM MEさ そんなのより Higher〉と、ネームタグを蹴飛ばし“自分は自分だ”と表明する様は痛快だ。大人の世界に流されることなく、自分の意志を持って進んでいこうとする強さが存在していた。

 コール&レスポンスで会場を沸かせると、勢い止まぬままラストスパートをかけていく。曲名のコールを受け、ひと際大きな歓声が響いたのは「Prince」だ。人気ナンバーの登場に会場の熱気も一気にヒートアップ。さなりの「歌ってくれ!」という煽りに呼応し、スタンディングから特大のシンガロングが巻き起こる。タオルを全力で振り回す「BRAND-NEW」で遊びきると、ライブを締めくくった。

 アンコールでステージへ舞い戻ると、AbemaTV『オオカミくんには騙されない♡』で話題になった「Flow love」へと繋がれていく。言葉一つひとつを選ぶように歌う姿は、“オオカミくん”として過ごした2019年の冬を思い出しているようにも見えた。以前よりも伝達力の増した歌声が、ファンの脳内に番組の情景を豊かに描いた。DJエディがトラックを手がけた新曲「SAILOR」をパフォーマンスすると、ツアーなどで長い間一緒に過ごしてきた相方とも呼べる彼が手掛けた曲ということもあり、オーディエンスは再び熱狂へ。トリの1曲となったのは、デビュー前からキラーチューンとして名高い「嘘」だ。ダンサーが一気に増え立ち代わりダンスが展開されるさまは、MVが目の前で繰り広げているような錯覚に陥る。歌にラップ、ダンスと、今ある彼の全てを魅せつけ、「SICKSTEEN」ツアーを締めくくった。

 「事件は“会議室”で起きてるんじゃない! “現場”で起きてるんだ!!」なんて有名なフレーズがあるが、文化の形成が行われていくのも机の上ではなくライブ会場だ。さなりというアーティストは、その“現場”に人々を巻き込む力を持っている。まだまだ伸び盛りの17歳。ここから彼が人として、ミュージシャンとして、どんな飛躍を見せてくれるのか楽しみでならない。

■坂井彩花
ライター/キュレーター。1991年生まれ。ライブハウス、楽器屋販売員を経験の後、2017年にフリーランスとして独立。Rolling Stone Japan Web、EMTGマガジン、ferrerなどで執筆。Twitter

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