V系シーンに根付くパロディ/オマージュ文化 ゴールデンボンバー、仙台貨物らの例から考える
ヴィジュアル系シーンではオリジナリティが重視される一方で、パロディ/オマージュ文化も根づいている。本記事では、パロディ/オマージュの目立った例をいくつかまとめ、彼らの表現が受け入れられている理由を考えていく。
パロディ/オマージュの最たる例がゴールデンボンバーだ。2009年に発表した『イミテイション・ ゴールド~金爆の名曲二番絞り〜』に収録された「TSUNAMIのジョニー」や「ultra PHANTOM」などは、ヴィジュアル系シーン外の有名アーティストを模した曲だ。また、the GazettEの「舐~ zetsu~」を彷彿とさせる「†ザ・V系っぽい曲†」は、タイトルの通りヴィジュアル系のセルフパロディとなっている。彼らのこうした曲たちは、アートワーク・特典なしのシングル『ローラの傷だらけ』での試みや、美しさよりも利便性を追求したWikipedia風の公式サイトなど、既存の手法と相対化し別の価値を浮かびあがらせる活動姿勢と一貫している。
相対化という点では仙台貨物にも触れておきたい。メンバーのイガグリ千葉(Vo)は、2000年代から頭角を表したバンド、NIGHTMARE・YOMI(Vo)の“実の弟”。ヴィジュアル系らしからぬ宮城弁の歌や、(現在の感覚からすると是非が難しいが)“メンバー全員がゲイ”を筆頭とする多数の細かい設定が特徴だ。彼らの存在は、シーンにおける “世界観" の概念や、バンドマン対“バンギャル”(女性ファンの総称)という見かけ上ヘテロな関係を相対化する。また、NIGHTMAREも「ナヅキ」のMVで、ネオヴィジュアル系ムーブメントや、自分たちの愛玩的な人気を相対化するような演出をしていた。1990年代のシーンの熱気とそれに対する偏見の両方を、ファンとして感じてきた世代ならではの客観的な視点だろう。
ゴールデンボンバーの「†ザ・V系っぽい曲†」は、単発的なセルフパロディだったが、一方で、セルフオマージュをコンセプトとしたバンドもいた。2012~2017年に“古き良き時代の継承者”を掲げて活動したグリーヴァだ。彼らの曲には1990年代を彷彿とさせるフレーズが散りばめられており、一部の曲では、明らかに初期のDIR EN GREYをオマージュしていた。「JEALOUS」を思わせる「Diary」では、MVに加え、ピアノバージョンも制作するという凝りようだ。メンバー全員1990年代のヴィジュアル系はリアルタイムでは親しんでいないと明かしているものの(参照:club Zy.)、2010年代にあって1990年代へのリスペクトが溢れる徹底的なオマージュ姿勢は、“古き良き時代”のファンにも概ね好意的に受け入れられた。
DEZERTは、活動初期に蜉蝣から強く影響を受けており、千秋(Vo)は「むしろ「似てるね」と言われて嬉しかった覚えがある。(中略)だって、なにをやるにしても、最初は模倣から入りますよね?」と発言している(引用:CINRA.NET)。オマージュ対象は国内に限らず、たとえば「おはよう」は、Bring Me The Horizon「Happy Song」を明らかに意識した曲だ。2010年代結成のバンドのなかで、特にシーンからの注目を集めているDEZERTだが、彼らのようにさまざまなオマージュを練り上げながらオリジナリティを築いていくバンドを支える雰囲気も、現在のシーンに醸成されているということだろう。