『イン・ザ・キー・オブ・ジョイ』インタビュー
セルジオ・メンデス、SKY-HIやコモンらとのコラボレートを通して得た“音楽の喜び”を語る
「音楽は国境を超えた言語」ーー説明はいらないし、国籍も関係ない
――日本人としてどうしても聞いておきたいのは、SKY-HIとのコラボレーションです。どのようにしてこの組み合わせが実現したのでしょうか。
セルジオ:アルバム制作に取り掛かり始めた頃に、日本人の若いラッパーと一緒に曲を作りたいと思ったんだ。それで日本のレコード会社の担当者に伝えて、誰か推薦してくれないかってお願いしたところ、3組のアーティストのミュージックビデオを観たのだけれど、その中にSKY-HIがいた。一瞬で彼と一緒に制作したいとインスピレーションを感じた。それから彼に会ったら、やはりとてもフィーリングが合ったんだ。すごく音楽的な素養を持っているし、ラッパーだからリズムもすごく自然に乗ることができる。実は彼のアルバムの1曲にピアノで参加しているよ。ミュージックビデオも作ったからぜひ観てほしい。
――SKY-HIとコモンは同じ曲を歌っていますが、それぞれのカラーが出ているのが面白いと感じました。
セルジオ:アメリカのシカゴ出身のコモンと、日本のSKY-HI。それぞれの解釈はまったく違うけれども、どちらも素晴らしい出来栄えになった。いかにこの楽曲そのものがユニバーサルなものなのかが証明されたともいえるね。あともうひとつ強調しておきたいのが、アートワークを日本人デザイナー(吉永祐介)にお願いしたんだ。CDジャケットは私の頭の上にピアノや様々な音楽を感じられるものが散りばめられていて、最高のデザインに仕上がっている。ブラジルだけでなく、世界中のアーティストが参加し、それを日本人がアートワークにまとめ上げたというところが嬉しい。これが本当の意味でのコラボレーションだと思っている。
――これまで50年以上も来日を重ねている中で、ここまで密接なコラボレーションは初めてではないですか。
セルジオ:これまでも何度か共演の経験はあるけれど、今回は特に密接かもしれないね。でも、70年代にカネボウのキャンペーンソングを作ったことがあって、そのときは浅野ゆう子さんとコラボレートしたんだ。「サマーチャンピオン」という曲なんだけど覚えているかい? あの時は沖縄から札幌までキャンペーンを兼ねた全国ツアーも行って、とても楽しかったという記憶があるよ。
――今作の特徴として、プレイヤーやプロデューサーとしてだけでなく、ソングライティングにも積極的に参加されていますよね。
セルジオ:演奏するのと違って、ピアノの前に座って一から作っていくから、最初のスタートが難しかったよ。楽曲作りは演奏とはまったくプロセスが違うからね。苦労もしたけれど楽しい作業だった。
――そのせいか、これまでのアルバムと比べると、多彩なゲストが参加していながらも、一本筋が通っている印象を受けました。
セルジオ:そう感じてもらえると嬉しいよ。求めていたものがはっきりしていたからね。
――この路線(ソングライティング)は次作でも継続するのでしょうか。
セルジオ:うーん、それはわからないな。というのは、私はすぐに違うことをやりたがるし、同じことを繰り返すのは好きではないんだ。ただ、素晴らしいメロディとリズムを作るという音楽の基本は変わることはないだろうね。
――あなたの音楽は、誰が聴いてもわかりやすくてハッピーな気分になる、とても楽しめるものです。でも必ず、メロディ、ハーモニー、そして特にリズムにブラジル人としてのアイデンティティを強く感じさせるところが素晴らしいと思います。そこのこだわりはどう考えていますか。
セルジオ:ありがとう。そういってもらえるのはとても嬉しい。でももっというと、音楽は国境を超えた言語なんだ。だから説明なんていらないし、国籍がどうだってことも関係ない。音楽に対する「この音楽いいなあ、好きだなあ」っていう気持ちは、どの国の人でも感じることができる。そう感じる理由は、その音楽がその人をいい気持ちにさせてくれるからで、まさにその「いい気持ち」にさせるのが、音楽の持つパワーだと思うし、グローバルなものだ。絵画を見る、本を読むというのもいいんだけれども、一瞬でいいと思えるのが音楽の凄さなんじゃないかな。
――言葉にとても重みがありますね。
セルジオ:いやいや、良い質問をしてくれて感謝しているよ。
――そういう観点でいうと、『イン・ザ・キー・オブ・ジョイ』はどういうアルバムになったと思いますか。様々なトライをしたアルバムだということはもちろんですが、さきほどの言葉通り、直感的に良いと思える内容になっていると思います。
セルジオ:もちろん、今までで作ったアルバムで最も好きな作品だよ。
――最高の答えですね。
セルジオ:ライブでも早くこれらの楽曲を披露したいと思っている。ツアーを楽しみにしているよ。
(取材・文=栗本斉/写真=幡手龍二)
■リリース情報
『イン・ザ・キー・オブ・ジョイ』
価格:¥3,850(税込)
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