北野創の新譜キュレーション(年末特別編)

北野創が選ぶ、2019年アニソン/声優音楽年間ベスト10 紅白出場LiSAやAqoursメンバーソロ活動、ヒプマイなどの話題作も

・Blanc Bunny Bandit『漂白脱兎』(2019.03.13)
・ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-『Enter the Hypnosis Microphone』(2019.04.24)
・夏川椎菜『ログライン』(2019.04.17)
・逢田梨香子『Principal』(2019.06.19)
・LiSA『紅蓮華』(2019.07.03)
・KiRaRe『Don't think,スマイル!!』(2019.07.24)
・紗倉ひびき(CV:ファイルーズあい)、街雄鳴造(CV:石川界人)『お願いマッスル』(2019.07.24)
・VA『TVアニメ「キャロル&チューズデイ」VOCAL COLLECTION Vol.1』(2019.07.31)
・ReoNa『Null』(2019.08.28)
・中島愛『水槽/髪飾りの天使』(2019.11.06)

 2019年のアニメ/声優音楽を振り返ったときに、シーンの動向を象徴するような楽曲、この年ならではの話題性に富んだもの、個人的に刺さったものを中心に10作品をピックアップしました。選んだ基準はバラバラなので順位付けはしていません。上記リストの並びは発売日の早い順です。

LiSA『紅蓮華』

 今年のTVアニメで最大の話題作と言えば『鬼滅の刃』。そして今年のアニメ音楽シーンで最も注目を集めたトピックと言えば、LiSAの『第70回NHK紅白歌合戦』(NHK総合)出場。ということで、彼女が歌った『鬼滅の刃』のOPテーマ「紅蓮華」は、2019年を語るうえで欠かせない楽曲と言えるでしょう。LiSAが『紅白歌合戦』に初出場する意味については、こちらの記事(LiSA、紅白初出場までの10年を辿るーーアニメ音楽とポップスシーンを繋ぐ“ロックヒロイン”の軌跡)に書いたので詳細は省きますが、2009年に水樹奈々が『紅白』に初出場してちょうど10年ということも含めて考えると、さらに感慨深いものがあります。来年には初の単独ドーム公演(メットライフドーム)を開催することも決定しているLiSA。『紅白』ではきっと2020年代に繋がるパフォーマンスを見せてくれることでしょう。

ReoNa『Null』

 そんなLiSAが2010年代に切り拓いてきた新しい「アニソンシンガー像」をある意味で継承しつつ、新時代を築いてくれそうな存在が、LiSAと同じ音楽レーベル<SACRA MUSIC>に所属するReoNa。今年はアニメ『ソードアート・オンライン アリシゼーション』のEDテーマ「forget-me-not」や、『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』に登場する劇中アーティスト・神崎エルザの楽曲として制作された神崎エルザ starring ReoNa名義の作品『Prologue』などを発表してきたなか、ノンタイアップで自身のアーティスト性をより強く打ち出した3曲入りシングル『Null』は、「誰かの絶望に寄り添える歌」を身上とする彼女らしさが濃く出た一枚に。特に彼女がデビュー前から歌ってきた「怪物の詩」は、(偶然にも)歌詞のテーマ性にビリー・アイリッシュ「bury a friend」と共通するところがあったりと、息苦しさを感じやすい現代にこそ必要とされる音楽のようにも思えます。最新ツアーでのオルタナロック色が強まったライブも素晴らしく(「Dancer in the Discord」でのReoNa自身がシューゲイズギターを掻き鳴らす光景は忘れられません)、今後が最も気になるアーティストです。

逢田梨香子『Principal』

 今年は女性・男性含めて声優のアーティストデビューが多く、個人的にはゆるやかに世代交代が始まっているような感触を受けましたが、そんな新人勢のなかでも注目を集めたのが、『ラブライブ!サンシャイン!!』の桜内梨子役でAqoursのメンバーとしても活躍する逢田梨香子のデビューEP『Principal』。ピアノが全面で活躍する楽曲群はどれも高品質で、本人のクリアで伸びやかな美声も品格を感じさせるもの。ポップスとしての洗練性を感じさせる、従来のファンのみならず万人に届いてほしい作品でした。ハヤシケイが全曲の作詞を手がけた斉藤朱夏のデビューミニアルバム『くつひも』も、等身大の彼女の姿が描写された充実作でしたし、ボーカル&パフォーマンスユニットのBlooDyeを始動させた高槻かなこ、年明けに<ランティス>からデビューが決まっている鈴木愛奈、同じく<トイズファクトリー>からシングルをリリース予定の小林愛香など、Aqoursのメンバーによるソロ活動が一斉に活発化したのは、今年のトピックのひとつだったように思います。

夏川椎菜『ログライン』

 そんななか、自らのアーティスト性を一気に開花させたのが、TrySailのメンバーとしても知られる夏川椎菜。グループの中ではソロデビューがいちばん最後で、当初はソロ活動に対してあまり積極的な気持ちになれなかったという彼女ですが、徐々に自分らしい音楽を探求するクリエイティビティを発揮しだして、今年4月の1stアルバム『ログライン』では3曲で作詞を担当。華やかなパワーポップ「ファーストプロット」、痛快なダンスロック「ステテクレバー」など、ネガティブな一面やちょっとした毒を忍ばせながらも、全体の印象はしっかりポップという絶妙なバランスの作品に仕立てました。9月には早くも次作『Ep01』を発表したことからも、現在の彼女は創作意欲に溢れているのであろうことが伝わってきます。

中島愛『水槽/髪飾りの天使』

 もちろん元気だったのは若手ばかりではありません。たとえば堀江由衣の約4年半ぶりとなるアルバム『文学少女の歌集』など、キャリアを積み重ねてきたからこその深みを感じさせる名作も多数ありました。そのなかで今年デビュー10周年イヤーだった中島愛もまた、ベスト盤『30 pieces of love』を含め、これまでの歩みがあったからこそのリリースを展開。セルフプロデュースによるカバー集『ラブリー・タイム・トラベル』は、80年代のアイドルポップスや歌謡曲好きな自身の趣味を反映した選曲に加え、tofubeatsやKai Takahashi(LUCKY TAPES)らをアレンジャーに起用して、シティーポップ人気が再燃する近年の流れにもマッチした作品でした。そして10周年イヤーを経ての最新シングル曲「水槽」です。さまざまな家庭環境や事情を抱えた中学生男子がソフトテニスに打ち込む青春模様を描いたTVアニメ『星合の空』のOPテーマとなる本楽曲。その作品で描かれるテーマに寄り添いながらも、ただ昂揚を促したり感傷に浸ったりするのではない、繊細かつ不思議な余韻を残す歌唱は、歌手として、声優として、自身の表現に磨きをかけてきた今の彼女だからこそ成しえたもの。生楽器とエレクトロニクスが有機的に絡み合ったトオミヨウの玄妙なアレンジも素晴らしいです。

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