鳥居咲子の新譜キュレーション(年末特別編)

鳥居咲子が選ぶ、2019年韓国ヒップホップ年間ベスト10 頭角を現し始めた若手ラッパーからベテラン勢まで

1.Young B『Stranger』
2.Kid Milli『L I F E』
3.Cosmic Boy『Can I Love?』
4.Uneducated Kid『HOODSTAR』
5.legit goons『ROCKSTAR GAMES』
6.BewhY『The Movie Star』
7.Jay Park『The Road Less Traveled』
8.Paloalto『Love, Money & Dreams: The Album』
9.C Jamm『KEUNG』
10.E SENS『The Stranger(異邦人)』
※順不同

 2019年の韓国ヒップホップシーンは、かつてないほどの激しいリリースラッシュが続いた。シングルとアルバムを合わせると、毎月100にも上るタイトルがリリースされ、少し目を離したすきに話題の楽曲が目まぐるしく塗り替えられていくため、リスナーにとっても大忙しの一年だったと言える。

 今年は近年の激しい世代交代プロセスが一旦完了した印象だった。「若手に押されるベテラン勢」という図式はますます強化。特にここ2~3年で頭角を現した若手の活躍が目立った。例えば弱冠20歳のYoung B。彼は2017年に『高等ラッパー』という高校生を対象にしたラップバトル番組で優勝した実力派だ。今年2月にリリースされた1stアルバム『Stranger』では、トレンド先端のトラックからオーソドックスなヒップホップまで多様なジャンルで豊かな表現力を見せた。

 Young BのレーベルメイトであるKid Milliも、2017年頃から急激に注目を浴びるようになった新鋭のひとり。過去3年間で5枚のEPと1枚のフルアルバムをリリースしたほどの多作家だ。最新EPの『L I F E』では、彼特有の小刻みなリズム感のラップがたっぷり堪能できる。どの曲をシングルカットしても遜色ないくらい全体のクオリティが高い。

 知名度や商業的な成功という点からは少々離れるが、Cosmic Boyの『Can I Love?』は非常に完成度が高く、注目すべき作品。彼もここ1~2年で名が知られるようになった新鋭プロデューサーだ。若手のラッパーたちを多く起用した本作は、レイドバックするグルーヴ感たっぷりのサウンドと、そこに乗せられる効果的な電子音など、すべてがフレッシュに響く。

 同じく新人のUneducated Kidによるアルバム『HOODSTAR』も良作だ。彼はキャラ作りも徹底しており、例えば「教育を受けていないヤツ」という意味のラッパーネームもそのひとつ。実際は高等教育まで受けているが、アウトローに生きてきたという設定のストーリーが本アルバムにも敷き詰められている。彼はこのような遊び心あふれるスタイルで、韓国ヒップホップシーンに新たな流れを巻き起こしたと評されている。

 新鋭と呼ぶには十分すぎるキャリアを積んでいるが、Legit Goonsの新作も秀逸だ。彼らは2014年頃から注目を浴びるようになったクルーで、ヒップホップマニア層からの支持が厚い。4枚目となるアルバム『ROCKSTAR GAMES』はこれまでのゆったりとしたバイブスとは違い、ハードコアなスタイルで勝負した。安定感のあるサウンドメイキングはさすがである。

 初めて大きく注目されたのが2015年だということを考えると、すでに“大物ラッパー”のポジションにいるBewhYは稀有な存在だ。今年は韓国独立運動100周年記念の公式ソングを国からの依頼で担当するなど、アーティストとしてネクストステージに突入した感がある。アルバム『The Movie Star』は、全12曲の作詞・作曲・編曲・ミキシングまでの全工程がBewhY自身の手によるもの。ずば抜けて正確な発音とリズム感のラップで一目置かれる彼は、プロデューサーとしての才能も改めて誇示した。

関連記事