U2、『The Joshua Tree』完全再現ツアーで改めて伝えたバンドの象徴的なメッセージ 日本公演を振り返る

 以降はトルーマン・カポーティの『冷血』やノーマン・メイラーの『死刑執行人の歌』から着想を得た「Exit」の演奏前に1950年代のフィルム・ノワール『狩人の夜』にオマージュを捧げながらトランプ政権を批判し、アルバムのラスト曲「Mothers of the Disappeared」を披露して観客に一礼すると、『The Joshua Tree』発売後のツアーを追った同名ライブドキュメンタリー映画のサウンドトラックとして発売された1988年の次作『Rattle and Hum(魂の叫び)』の収録曲「Angel of Harlem」を披露して再現パートを終えた。

 そして最後はバンドの専門ラジオ局「U2X RADIO」の開設を発表すると、「Elevation」「Vertigo」「Even Better Than the Real Thing」「Every Breaking Wave」「Beautiful Day」といった世界屈指のスタジアムバンドとなって久しい近年の壮大なスケール感を持つ楽曲を次々に披露。「Ultra Violet(Light My Way)」ではグレタ・トゥーンベリら世界各地の女性運動家に加えて、オノ・ヨーコ、草間彌生、川久保玲、伊藤詩織など日本の女性たちが次々にスクリーンに映し出され、「Love is Bigger Than Anything in its Way」を挟んで、スクリーンに表示された世界地図に重ねるような形で「人は全員が平等になるまで、誰も平等ではない」という文字が表示され、最終曲「One」で団結を訴えて幕を閉じた。

 アメリカへの憧れやアメリカの光を抱きながら、同時にその影を見つめたことで生まれた『The Joshua Tree』は、今やU2だけではなく、多くのバンドにとっての基準/参照点のひとつになっている。ColdplayやThe Killersらを筆頭に、00年代以降のバンドがスタジアム/アリーナクラスのバンドに変わるとき、影響源にはこの作品の存在があった。

 そんな歴史的名盤を、あくまで今の彼らとして再現した今回の『The Joshua Tree Tour 2019』は、自身の今に至るターニングポイントのひとつにして、今後も幾度となく振り返られるだろうロックの名盤を自らの手で再構築し、そこからの距離によってU2の変わったこと/変わらないことを祝福するような雰囲気が、何よりも印象的なライブだった。

(ライブ写真=ROSS STEWART)

■杉山 仁
乙女座B型。07年より音楽ライターとして活動を始め、『Hard To Explain』~『CROSSBEAT』編集部を経て、現在はフリーランスのライター/編集者として活動中。2015年より、音楽サイト『CARELESS CRITIC』もはじめました。こちらもチェックしてもらえると嬉しいです。

U2 ユニバーサル ミュージック サイト

関連記事