加山雄三、日本のポップス史に与えた影響とは? 新たな試みを続けてきた音楽遍歴を辿る
加山は映画スターとして人気を得ながらも、音楽への情熱を失うことはなく、1962年に俳優仲間でザ・ランチャーズというバンドを結成。その後、メンバーを変えてバンドは続けられたが、新たに加入した喜多嶋修は加山の重要な音楽的パートナーになった。そして、職業作家が手掛けていた「若大将」シリーズの主題歌を、加山は自身で手掛けるようになっていく。歌う映画スターはいたが、作曲も手掛けるスターは珍しかった。そんななかで、加山の音楽的才能がスクリーンで炸裂したのが『エレキの若大将』(1965年)だ。映画公開当時、The Venturesが空前のエレキブームを巻き起こし、次々と若者たちがエレキを手にするようになっていた。『エレキの若大将』で加山は、大ヒットした主題歌「君といつまでも」だけではなく、劇中のインスト曲も作曲。得意のエレキを弾きまくった。なかでも、ロックな躍動感に満ちた「ブラック・サンド・ビーチ」は、65年に来日したThe Venturesとザ・ランチャーズが共演した時に演奏されたが、曲を気に入ったThe Venturesが68年にシングルでカバーしたことで海外のロックファンにも知られることになった。そして、66年、加山は2枚のアルバム『加山雄三のすべて〜ザ・ランチャーズとともに』『Exciting Sound Of Yuzo Kayama And The Launchers』をリリースした。
歌謡曲とギターインストが入り混じった『加山雄三のすべて〜ザ・ランチャーズとともに』は加山の幅広い魅力を紹介した作品だが、驚かされるのは『Exciting Sound Of Yuzo Kayama And The Launchers』だ。加山はワイヤーレコーダーを使って早い時期から多重録音で曲を作っていたが、本作は喜多嶋とほぼ二人だけで作り上げ、歌詞はすべて英語という画期的な作品だった。機材が発達した現在なら、ミュージシャンが宅録した作品を出すことも珍しくないが、この時代に曲作りからレコーディングまですべてひとりでこなすミュージシャンは異色中の異色だった。
加山はエレキブームが起こる前から、いち早くThe Venturesを聴き、海外から高価なギターやアンプを取り寄せて新しいサウンドを研究していた。海外の音楽をいかに独自の音楽に昇華させ、日本のポップスとして定着させるか。それが日本のポピュラーミュージックの課題だったが、その課題に自作自演のミュージシャンとしていち早く挑んだのが加山だった。クラシック、カントリー、ロック、ハワイアン、ボサノヴァなど、様々な洋楽を吸収した多彩な音楽性や実験精神は、同じような問題意識を持っていた山下達郎や大瀧詠一といった研究熱心なミュージシャンたちに刺激を与えた(山下は「ブーメラン・ベイビー」、大瀧は多羅尾伴内楽団で「ブラック・サンド・ビーチ」をカバーしている)。RHYMESTERやスチャダラパーといったラッパーたちがリミックスアルバム『加山雄三の新世界』に参加したのも、彼らがヒップホップ黎明期にその新しい音楽を日本の風土に根付かせるために試行錯誤した経験が、デビュー時の加山に通じるものを感じたからだろう。
加山がミュージシャンとして脚光を浴びたのは60年代だが、それ以降も加山の音楽への好奇心は衰えることなく、テクノ(「メガロポリス・サンシャイン」)やラップ(久保田利伸「Messengers’ Rhyme~Rakushow,It’s your Show!~」)にも挑戦。最近ではブレイク前のBABYMETALを気に入って、愛船・光進丸で爆音で聴いていたという。加山の80歳の誕生日パーティーでは、加山のバックコーラスを山下達郎・竹内まりや夫妻、桑田佳祐・原由子夫妻が務め、その様子を見た星野源がそこに日本のロックの歴史を感じて感動したという。また、加山と対バンをしたことがあるクロマニヨンズの真島昌利は、80歳を越えてギターを弾きまくる加山を「本当のロックンローラー」と絶賛する。
2010年に加山は、森山良子、谷村新司、南こうせつ、さだまさし、THE ALFEEという、加山を慕う面々で加山雄三とザ・ヤンチャーズを結成。2014年には、佐藤タイジ(THEATRE BROOK)、キヨサク(MONGOL800)、古市コータロー(THE COLLECTORS)、武藤昭平(勝手にしやがれ)など、日本のロックシーンの精鋭たちとTHE King ALL STARSを結成するなど、世代を超えてミュージシャンから愛されてきた。今年結成した新バンド、加山雄三&The Rock Chippersは、ヤンチャーズのメンバーが再集結したバンド。来年2月には、作詞をさだまさし、作曲を高見沢俊彦(THE ALFEE)が手掛けた新曲「Forever with you~永遠の愛の歌~」がCDリリースされる予定で、「加山伝説」はこれからも更新されていきそうだ。
■村尾泰郎
音楽/映画ライター。ロックと映画を中心に、『ミュージック・マガジン』『レコード
コレクターズ』『CDジャーナル』など雑誌やウェブ、ライナーノーツ、パンフレット
などに幅広く執筆中。監修を手掛けた書籍に『USオルタナティヴ・ロック 1978-
1999』(シンコーミュージック)などがある。