ヒプノシスマイク、各地域ならではの音楽カルチャーを感じとれる楽曲群ーーオオサカ&ナゴヤ・ディビジョンから分析

ヒプノシスマイク(どついたれ本舗)『ヒプノシスマイク オオサカ・ディビジョン 「あゝオオサカdreamin'night」』

 まずは、芸人の白膠木簓(ぬるで・ささら/CV:岩崎諒太)、彼の元相方で教師の躑躅森盧笙(つつじもり・ろしょう/CV:河西健吾)、詐欺師の天谷奴零(あまやど・れい/CV:黒田崇矢)からなるどついたれ本舗のデビューCD『あゝオオサカdreamin'night』について説明していこう。本作にはメンバー3人が参加したチーム曲と、メンバー個々のソロ曲の全4曲を収録(また、各キャラクターの関係性を描いたドラマトラックも収録)。なかでもYouTubeで先行発表された時点で大きな反響を巻き起こしたのが、チーム曲にして表題曲の「あゝオオサカdreamin'night」だ。本楽曲を制作したのは、今やTVやラジオといった各メディアにも引っ張りだこのヒップホップユニット、Creepy Nutsの二人。日本最高峰のMCバトル大会『ULTIMATE MC BATTLE』3連覇を成し遂げ、『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日系)で2代目ラスボスを務めるなど、日本屈指のラップ巧者として知られるMCのR-指定が作詞を担当。そして今年9月に開催されたDJバトルの世界大会『DMC WORLD DJ CHAMPIONSHIP』で見事優勝を果たし、世界一のバトルDJの栄誉を勝ち取ったDJ松永がトラックを手がけている。

Creepy Nuts(R-指定&DJ松永) / みんなちがって、みんないい。【MV】

 R-指定と言えば大阪出身で、ときに関西弁を織り込む変幻自在のラップスタイルと、落語やお笑い好きの一面が見て取れる巧妙なオチと仕掛けを満載したリリック構成を身上としており、オオサカ・ディビジョンの楽曲提供にはうってつけの存在(ちなみにDJ松永は新潟出身)。なおかつ、彼がラップ百面相とでも言うべき巧みさで様々なラップを1ヴァースごとに披露していくCreepy Nutsの人気曲「みんなちがって、みんないい。」を聴いてもらえばわかるとおり、あらゆるタイプのフロウを分析して再現する技術に長けており、どついたれ本舗のやたらとアクが強い面々の個性をラップで表現するにあたって、こんなに適任な人材はいないのではないかと思えるほどだ。

 事実、「あゝオオサカdreamin'night」では3人のメンバーそれぞれが独自の個性を発揮。普段はオヤジギャグを連発しまくるという芸人の白膠木は、リリック内に〈真っさらに塗るで/刺さらん奴は〉と自らの名前をさりげなく織り込みつつ、Bad Ass Templeに向けたであろう〈口の悪そなお尻にお仕置き中〉といった相手を茶化すようなフレーズを、テンポよく流れるようなフロウで畳み掛ける。ビートに対するアプローチや声の抑揚の付け方は普段のR-指定そのものとも言えるが、それらをトレースしつつキャラクターとしての表現に落とし込んでいるところが聴きどころだ。続く天谷のヴァースは、演者である黒田崇矢のハードボイルドなバリトンボイスを活かした落ち着き払ったフロウに。とはいえ韻をがっつり盛り込んで饒舌に語る様には、歴戦のペテン師らしい貫禄がにじんでいる。そして特にユニークな仕掛けが施されているのが躑躅森のパート。躑躅森はかつて白膠木とお笑いコンビを組んでいたが、極度のあがり症のため芸の道を諦め、教師になった過去の持ち主。この曲でも最初は自分の出番になるや否や、緊張のあまりどもって言葉が出なくなってしまうのだが、そこに元相方の白膠木が割り込んできて、掛け合い漫才のように楽曲が進行していくという形をとっており、キャラクター同士の関係性や特徴をも浮き上がらせることに成功している。また、白膠木と躑躅森の演者である岩崎と河西は二人とも大阪出身ということもあり、関西弁による受け答えのテンポや間合いもまるで本物の芸人コンビのように絶妙だ。

ヒプノシスマイク「あゝオオサカdreamin' night」どついたれ本舗

 その他サビ部分に〈すっきゃねんってhold me tight〉と、関西弁バラードの定番曲であるやしきたかじん「やっぱ好きやねん」と上田正樹「悲しい色やね」の歌詞を合わせたようなフレーズを忍ばせて、大阪レぺゼン感を演出する遊び心にもニヤリ。サウンド面に目を向けても、マイアミベース風のシンプルかつブーミーなトラックに三味線や尺八といった和楽器のウワモノを合わせているところに、大阪のベテランクルーである韻踏合組合がかつてバウンシーな和ネタ曲を得意としていたことを思い出したり(ちなみに白膠木のソロ曲「Tragic Transistor」は韻踏合組合のHIDADDYが作詞を担当している)。そういった意味で全方面において大阪らしさが伝わってくるのが、この「あゝオオサカdreamin'night」と言えるだろう。

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