ヒプノシスマイク、各地域ならではの音楽カルチャーを感じとれる楽曲群ーーオオサカ&ナゴヤ・ディビジョンから分析

ヒプノシスマイク -D.R.B- (Bad Ass Temple)『Bad Ass Temple Funky Sounds』

 では、もう一方のナゴヤ・ディビジョン・Bad Ass Templeの楽曲は、どのような部分において名古屋らしさを表現しているのか。それは彼らのデビューCD『Bad Ass Temple Funky Sounds』の表題曲「Bad Ass Temple Funky Sounds」を紐解けばすぐにわかる。僧侶の波羅夷空却(はらい・くうこう/CV:葉山翔太)、V系ミュージシャンの四十物十四(あいもの・じゅうし/CV:榊原優希)、弁護士の天国獄(あまぐに・ひとや/竹内栄治)と、これまたひと癖もふた癖もあるメンバーが揃ってマイクを握る本楽曲を提供したのは、地元の名古屋を拠点に(前身グループを含めると)20年の活動歴を誇るnobodyknows+。2004年発表のシングル曲「ココロオドル」が大ヒットを記録し、同年末には『NHK紅白歌合戦』(NHK総合)に出場も果たした、名古屋を代表するヒップホップグループのひとつだ。

nobodyknows+「ココロオドル」

 nobodyknows+と言えば、Crystal Boy、ヤス一番?、ホクロマン半ライス!!!、ノリ・ダ・ファンキーシビレサスら個性豊かなMCによる息もつかせぬマイクリレーと、リーダーのDJ MITSU制作によるファンキーなトラックが合わさったノリの良いパーティースタイルが持ち味。メロディアスかつアッパーな先述の「ココロオドル」はもちろん、ディスコティックな雰囲気がオールドスクール感全開の「シアワセナラテヲタタコウ」、マイナー調の切ないメロに勢いあるラップがエモさを強調する「エル・ミラドール~展望台の唄~」といったヒット曲を持ち、同郷のSEAMOやHOME MADE家族らとともに、広くJ-POPのフィールドでも活躍するラップアクトとして人気を集めた。おそらく世代的に今20代の人の中には、彼らやRIP SLYME、KICK THE CAN CREW、SOUL'd OUTといったアーティストたちの楽曲を通じて、ラップミュージックに初めて触れたという人も多いのではないだろうか。

 そんなnobodyknows+が楽曲を手がけたこともあってか、「Bad Ass Temple Funky Sounds」は非常にファンキーかつチーム感に溢れた楽曲となっている。キャッチーなギターリフとスクラッチ、太くうねるベースライン、細かな音の抜き差しで展開を作るサウンドデザインにはDJ MITSUらしさが息づいているし、それぞれキャラの立ちまくったラップを隙間なく応酬していくところは、まさにnobodyknows+のスタイル。また、各々のフロウもキャラクターの特徴をしっかりと反映したものになっている。波羅夷は僧侶らしくお経を読むような抑揚の付け方を交えながら、やんちゃな一面がダダ洩れているワイルドなラップを披露。そしてノリ・ダ・ファンキーシビレサスを彷彿させる、いかつく男らしいダミ声ラップを聴かせるのが天国。過去にいじめを受けていた過去を持つ四十物は、座右の銘である「何があっても、何があっても、何があっても屈するな」の精神を、厨二病ワードを織り込みながらクールなイケメンボイスで速射する。後半になるにしたがってお互い声を合わせるパートが増えて団結心が強まるような構成も素晴らしく、リリック内で使われている名古屋弁を引用するならば「ちんちこちん(すごく熱い)」な一曲と言えよう。

ヒプノシスマイク「Bad Ass Temple Funky Sounds」Bad Ass Temple

 ちなみにナゴヤ・ディビジョンのCDに収録されている波羅夷のソロ曲「そうぎゃらんBAM」は元SOUL'd OUTのDiggy-MO'が楽曲を提供。彼特有のオリジナリティの塊りのようなライミングやフロウを、声優の葉山翔太がキャラクターとして解釈しつつ見事に演じ切っているので、ぜひ聴いてほしいところ。また、V系バンドのLeetspeak monstersが手がけた四十物のソロ曲「月光陰-Moonlight Shadow-」は、厨二病感全開のゴシック系ミクスチャーロック(名古屋系を意識?)。そしてロカビリー風イントロからゴリゴリのワル系トラックに繋がる天国のソロ曲「One and Two, and Law」は、『ヒプノシスマイク』には「ベイサイド・スモーキングブルース」に続き二度目の登板となるKURO(HOME MADE 家族)とCHIVA(BUZZER BEATS for D.O.C.)のコンビが制作している。天国はなぜかジョー・ストラマーの名言「月に手を伸ばせ たとえ届かなくても」を座右の銘にしていたりと、いわゆるヒップホップに限らない音楽的バックボーンを感じさせるのもナゴヤ・ディビジョンの特徴。それはもしかしたら、ヒップホップとハードコアパンクのように異ジャンル間の交流が盛んな名古屋の音楽シーンのカラーを反映したものなのかもしれない。

ヒプノシスマイク「Bad Ass Temple Funky Sounds」/ ナゴヤ・ディビジョン Bad Ass Temple Trailer

 以上、オオサカ、ナゴヤの各ディビジョンの特徴についてざっくりとさらってみたが、ここでは紹介しきれなかったネタがまだまだ詰め込まれているのがヒプノシスマイクの楽曲のすごいところ。ヒプノシスマイクという作品世界とリアルなヒップホップ/音楽シーンのレイヤーを重ね合わせ、声のプロである声優がキャラクターとしてラップを行うことによって、その魅力は何倍にも掛け合わさることになる。今後も「Before The 2nd D.R.B」と題してイケブクロ、ヨコハマ、シブヤ、シンジュクの4ディビジョンのCDが4カ月連続でリリースされるので、引き続き注目していきたい。

■流星さとる
流浪の人。アニメ・声優・アニソン関連のライター仕事、よろず承ります。お問い合わせは【ryuseisatoru@gmail.com】までどうぞ。

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