『……』インタビュー

あらかじめ決められた恋人たちへ 池永正二が語る、劇伴の経験生かした制作活動とインストの強み

装飾を削ぎ落としたら一番残るのはメロディ

ーーふむ。具体的な制作はいつ頃から始めたんですか。

池永:今年の7月です。それまで曲の断片みたいなものがあって、それに肉付けできてまとまり始めたのが7月で。8月にバーっと録音して、ミックスして、2カ月で仕上げました。

ーーまとまるきっかけになった曲は?

池永:1曲目の「count」がまとまったのが(大きかった)。1曲こういうものがあると、別の曲で遊べるなと。

あらかじめ決められた恋人たちへ -arakoi-「count」

ーー幹となるものがあるから、後はその周りに枝をつけていけばアルバムになると。

池永:ほんまそれです。ひとつ根っこがあると、いろんなところに生やしていけたり、生やしたところからまたバッと浮かんで曲ができたりするじゃないですか。

ーーなんでタイトルが「count」なんですか?

池永:シンセのメインフレーズが根幹にあり、それが12分鳴り続けるんですが、そのシンセのリズムの数え方がメンバーによって変わってくるんです。ある事柄に対して、四拍子にとる人もいれば三拍子にとる人もいて、それぞれの見方によって変わってくる。数の数え方をいろんなメンバーで変えていこうというか、“自由”っていうと大げさになるけど、それぞれの見方を尊重しようと思った。自分がこの数え方が正しいと思っていても実は違うみたいな。それで「count」っていうタイトルです。

ーー大雑把に言うと、多面性とか多彩さを大事にする、いろんなものの見方があるっていう。

池永:固定した見方ってあんまり信用できないなって。人から見たら案外間違っていたり、違う意見もあるよっていう。大きく言うとそういう曲です。

ーーそれは池永さんが生きていて常に感じることなんですか。

池永:感じますね。人と喋っていても、あ、俺間違ごうてた、そっちのほうが面白いなって思うことはあって。結構人って、そこを切り替えられへんじゃないですか。間違ってたら、ごめん、間違ごうてたって言えるその気軽さは重要で。

ーーひとりで作業していて、そういう客観的な見方をしてくれる人がいないと、どうしても袋小路に陥りがちだと思うんです。そこはどういうふうに解決するんですか。

池永:そこはね、嫁なんですよ(笑)。「全然よくない」って言われるので(笑)。「聴いたことあるで、そのメロディ」って。痛いとこ突くなって思うんですけど、「次のやつ、新しいことやるって言うてたやん」って言われて、「はい……」ってなります(笑)。自分ひとりでやってると、Aメロ変わってるからサビであら恋ドカン! と来てもOKやんって思ってたんですけど、「結局一緒の展開になったら元も子もないやん」って言われるんですよね。むっちゃ腹立つんですけど……でも僕はいろんな人に言われるんですよね。言われやすい感じするでしょ?

ーーいや、知らないですけど(笑)。

池永:メンバーにも「これ前と一緒っすよ」って言われて、ガーンってなるんすよ(笑)。結構違うつもりで作ってんけどなーって。でもそこから時間経つと、確かにな、って(笑)。押し通すところは押し通しますけど、やっぱり直しますね。直したらいいようになることはあるので、身近にハッキリ言ってくれる人がおると、むっちゃ腹立ちますけど助かりますね。言われたほうがいいんですよ。だんだん言われなくなっていくじゃないですか。

ーー池永さんはそういう苦言に耳を傾ける柔軟性があるってことですね。絶対に耳を貸さない人もいるじゃないですか。

池永:貫ける人はそれでいいと思うんですけど、僕の場合は……劇伴とかやっていると、違うって言われたら違うねんなって思うので。

ーーそうか、監督がダメって言ったらダメですもんね。

池永:そうなんですよ。これはこうなんでって説明しても、違うものは違うので。拗ねたらアカンって思うので。じゃあこうしたらどうですか? ってやり取りしていくほうが生産性がありますよね。

ーー劇伴をやって得られた経験値や教訓も、自分の音楽を作る時に役に立っている。

池永:あります。やっぱり共同作業なので。こういうふうに聴こえているんだっていうのがちゃんとわかるのは大事。しんどいし大変ですけどね。

ーー今回のアルバムはフィニッシュまで持っていく時どういうことを注意しながらやっていましたか。

池永:物語性が出るように。

ーーそれはすごく感じました。

池永:言葉にはできないけど、聴いていたら何か物語性を感じるようなものにしようとしていました。喚起させるものというか。聴いた時にパッと物語が出てきそうで、でもこういうものですよってハッキリ書かれているものではなく。そこは音楽であり、ダブだから。リズムやし、踊りだったりするので。フッとリズムが変わった時に何か広がるようなもの。それが時には暗かったり、無力な盛り上がり方に聴こえる時もあれば、希望に聴こえる時もあるように、ハッキリ描き過ぎないものにしたかった。聴き手が想像力を働かせる隙間があるような音構成にしたかった。美しくするのであっても、美しいままでもいいところを、敢えて美しくない音を入れて、その音に耳を取られる時もあれば、美しさに耳を取られる時もあったりするようにして。

ーーなるほど。池永さんの音楽から、いろんな装飾を削ぎ落としていって残るものはなんだと思いますか。

池永:主旋律が残るのかな。たぶん鍵盤と鍵ハモだけで成立する音楽ではあるんです。それが削ぎ落した時の第1位ですね。第2位がリズムというか、踊りのほうやと思います。でも一番残るのはメロディです。

ーーじゃあ極端なことを言うと、池永さんの音楽は、メロディを活かすためにいろんな音を配置しているという言い方もできますか。

池永:できると思います。だからメロディを活かすためにリズムがあったり、コード感があったり、でもそれを殺すために変な音があったり。映画のセリフでもそうじゃないですか。そのセリフに対して、どういう環境で、どういう表情で、どういう画角で撮るかっていうことで全然意味合いが変わってくる。僕だったらメロディですけど、それをどうやって演出していくか。それが僕の音楽だと思います。

(取材・文=小野島大)

あらかじめ決められた恋人たちへ『……』

■リリース情報
あらかじめ決められた恋人たちへ
『……』(タイトル読み: リーダー)
発売日:2019年11月6日(水)
価格:2,800円(税抜)
<収録曲>
-流-
1. count
2. ヒズミ
-ケ-
3. 降っている
4. ハレ
-路-
5. 外
6. neon
7. 線
-未-
8. 日

■ライブ情報
『あらかじめ決められた恋人たちへワンマンライブ
「……」Dubbing XI』
2020年1月10日(金)@新代田FEVER
時間:開場 19:30 / 開演 20:00

2月15日(土)@大阪 北堀江 club vijon
開場:18:30 / 開演:19:00

■関連リンク
HP
SHOP
LISTEN

関連記事