オーディション企画『ONE in a Billion』制作スタッフインタビュー
坂道オーディションやNizi Projectも制作 ソニーミュージック新人開発スタッフに聞く、今求められるアーティストの条件
乃木坂46ら坂道グループを生み出した『坂道オーディション』、JYPとの共同企画『Nizi Project』など、これまでに多種多様なオーディションプロジェクトを展開してきたソニーミュージックが、新たなオーディションブランド『ONE in a Billion』を立ち上げた。
今秋から始まった『ONE in a Billion』は、YouTube番組でオーディション模様を追うリアリティーショーとグランプリ選定を一般視聴者に委ねる斬新な審査を取り入れ、これまでにない新たなオーディションの在り方を目指す新プロジェクト。オーディションアンバサダーをスカイピース、番組MCをガーリィレコードチャンネルが担当する。
第1弾のオーディションテーマは“男性ボーカリスト”。現在2次審査が行われている最中だが、その通過者を対象とした合同合宿審査が12月26日よりスタート予定となっており、ここで初めて審査候補者の面々がYouTube番組にて明らかになるという。合同合宿審査から一般視聴者による審査が行われ、翌年2020年2月5日にはZepp DiverCity(TOKYO)でのファイナルライブ審査を開催。グランプリは、「2020年春、即デビュー」の権利を獲得する。
米津玄師、清水翔太、CHEMiSTRYといった名だたる男性ボーカリストを擁するソニーミュージックが考える、今求められるボーカリスト/アーティストの条件とは? 今の音楽シーンの潮流から新たなポップスターを創生するブランド『ONE in a Billion』の狙い、そして日本のオーディションの目指すべき未来について、オーディションを運営するソニーミュージック新人開発スタッフに話を聞いた。(編集部)
可能性に賭けていくのがオーディションの主流に
ーーまず読者の方々に、日高さんと須藤さんが会社の中でどういうお仕事をしているのか、簡単に説明していただけますか?
日高 亮(以下、日高):僕と須藤はソニー・ミュージックエンタテインメントのSDグループという新人開発・育成セクション、その中に今年からできたオーディション部に所属しています。近年、有象無象あるオーディションの中で今までにない新しい形のオーディションを作り、そこからヒットする新人アーティストを生み出すことを目的とした部署です。
ーー日本でも古くからオーディション経由でデビューするアーティストは多いですし、海外ではここ10年ほどでオーディション番組が増えている印象があります。一方で、SNSを通じて自分をアピールするセルフプロデュース力に長けたアーティストも増えていますが、そういった中でオーディションは今どれだけ重要性があると思いますか?
須藤一希(以下、須藤):私がまさにそういったセルフプロデュースに特化したYouTuberやインフルエンサータレント、いわゆるネットクリエイターの方たちのマネジメント業務も担当していて。そういった方たちが身近なところにいると、今までのようにオーディションを受けて、そこで受かってからデビューするような一連の流れに旨味みたいなものを感じていないのではないかと正直思うんです。では、こちら側でオーディションを立ち上げることで何ができるかというと、セルフプロデュースをしている人たちに対して平等な立ち位置で、「うちはこういうことがサポートできますので、ぜひ一緒にやりませんか?」というような打ち出しといいますか、より寄り添っていくことを意識するようになりました。
日高:全方位的にサポートするというよりは、そのアーティストがさらに上のステージに行くために必要な部分をソニーミュージックとして補えたらなと。その伸び代の部分を見させていただいて、可能性に賭けていくのがオーディションの主流になってくるのかなと思っています。
音楽を手軽に聴けるからこそ“声”が重要視される
ーー実際、ソニーミュージックでは最近も坂道グループの各オーディションや、韓国のJYPエンターテインメントとタッグを組んだ『Nizi Project』など、さまざまなオーディションを行っています。
須藤:まさに『Nizi Project』と坂道オーディションは私も運営のほうにも携わっているのですが……さっき言ったこととは矛盾してしまうかもしれないですけど、特に坂道オーディションの場合はより多くの人、もはや芸能を目指していないという人たちまでにも波及するように、よりハードルを下げていくことも意識しているので、楽しそうだなと感じてもらえるポップな打ち出しを意識しています。なので、セルフプロデュースという次元ではなくて、単純に「自分的にはどんな才能があるのか」という意識すら芽生えておらず、芸能なんて考えたこともない人の中にある光るものを求めているんです。逆に『Nizi Project』は、これはK-POPの特性でもあると思うんですけど、歌やダンスは当たり前のようにできないといけないし、残っていく面々を見るとある一定のレベルまで磨き抜かれた才能ばかり。そこは違いを感じます。
日高:坂道オーディションの場合、例えば乃木坂46だったら「乃木坂46のイメージを崩さないような、可能性を持つ子たち」を発掘しようと意識する。実は『出れんの!?サマソニ!?』も弊社で行っているんですけど、こちらは『SUMMER SONIC』に出演するアーティストというところで、観客に対してどれだけ訴求できるかを見ていくんです。ただ、今回の『ONE in a Billion』に関しては曲が書けなければいけない、歌がうまくなければいけない、ダンスができないといけないなど、そういうアーティスト像を事前に決めず、とにかく「声」という部分のみに特化しているんです。
そういう意味では、我々審査する側も「こういう人じゃないといけない」というものが取り払われた状態なので、稚拙な言葉なんですけど「すごくいいな」っていう感覚が審査基準になっていくのかな、というのがひとつあって。それは、運営させていくスタッフ側にとってベーシックなことかもしれないし、加えて視聴者の皆さんも審査に加わる形にもしているので、今のニーズに寄り添ったアーティストが生まれるんじゃないか、今までやってきたオーディションとは異なるものになっていくんじゃないかと思います。
ーーこれまでのオーディションは歌唱力など技術の高さに価値を見出すものが多かったですが、今回のように「声」に焦点を当てるスタイルはありそうでなかったですよね。
須藤:そうですね。おっしゃっていただいたように、これまでは技術的な部分も含めて、バランスよく審査していたと思うんです。
日高:レコード会社の人間からすると、歌の「ピッチ」や「リズム感」、「ビジュアル」という点に目が行きがちですけど、「声」に焦点を当てることでより一般の方が審査しやすくなるのではないでしょうか。
ーーなるほど。最近のサブスクリプションサービスで再生回数の上位にいるアーティスト、例えば米津玄師さんやあいみょんさんは曲の良さはもちろんのこと、やはり声が特徴的な方々ですものね。
須藤:音楽を手軽に聴けるようになったからこそ、心地よさという点でも声がもっとも重要視されているのかなと。
日高:声が綺麗なだけでもいけないし、ざらついていても聴き心地がよければいいのかなと、チャートを見ていてすごく感じます。