カップリングベストアルバム『memorandum』インタビュー

やなぎなぎが語る、創作の原点とカップリングが映す過去の記憶「ネガティブな感情を持ったときの方が曲にしたくなる」

自分の辞書が増えていくような感覚が好き

ーーなるほど。それはものをつくるときに、届け手の人たちの存在を意識している、ということなのかもしれませんね。もう1曲選ぶとしたら、どの曲を選びますか?

やなぎなぎ:じゃあ、最後は10曲目の「想像の君」(2018年2月/『間遠い未来』収録)ですね。6曲目の「halo effect」とも似ているんですけど、この曲は「誰かに期待しすぎてる」ということがテーマになっていて。「この人のやっていることが好きだから、本人もこういう人なのかな」と勝手にイメージしてしまうことって、誰にでもあると思うんです。この曲は、そういうときに、「実際に会ったわけでもないのに、想像しすぎていないかな?」と自分を戒めたくて書いた曲でした。お会いしてもいないのに、勝手に想像しすぎちゃっていないかな、って。それで「想像の君とはグッバイしよう」という歌ができました。

ーーお話を聞いていると、やなぎなぎさんは本当に日々の色々なことが曲になっていくタイプの方なんですね。

やなぎなぎ:そうですね。人によっては、自分の見せておきたい部分と、そうでない部分とがある方もいると思いますが、私の場合は、何でも曲になる可能性があると思います。でも、たとえば明るい感情は、自分の中だけでハッピーになっているだけのことも多いんですよ。そう考えると、逆にネガティブな感情を持ったときの方が、「曲にしたい」と思うのかもしれないです。それで曲を書くと、「はい、(この感情は)終わり!」という感じですっきりします(笑)。

ーーちなみに、7曲目の「Surréalisme」(2013年4月。『ユキトキ』収録)はいかがでしょう? この曲はポエトリーリーディングにも近い、言葉を詰め込んだ歌が印象的でした。

やなぎなぎ:この曲はきくおさんに書いていただきましたけど、きくおさんの曲はもともと異世界っぽくてファンタジー的なので、「そういう雰囲気を思いきり出したい」という話をしていたんです。それに加えて、一緒にやるからには、「私があまり歌ったことのないものがいい」という話もしていたので、ポエトリーリーディングに近い、文字をガッと詰め込んだ「歌とお話の中間」のような雰囲気の曲になりました。私はもともと本を読むのも好きで、ファンタジーも好きで。自分で曲を書くときも、自分の感情を映したものではあるんですけど、結果的に童話っぽいものにしたいな、ということもあるので、そういう意味でも自分に合った曲になったような気がします。

ーーこの頃ですと、まだメジャーデビューされてから、それほど時間が経っていなかった時期ですよね。当時のやなぎなぎさんはどんなことを考えて過ごしていたと思いますか?

やなぎなぎ:当時は何かを考える余裕もなく、「今やれることを最大限にやらねば」ということで必死だったと思います。もともと、自分でつくる曲はポップス寄りのものではなかったですし、この頃はタイアップ作品ありきで歌詞を書くようになってからまだそれほど時間が経っていない時期で。自分の世界だけではないものを歌にするために、毎回「今持てるすべてを出そう」と考えていました。作品を観る人に、自分ができる中で最大限にいいものを届けたい、ということを考えて必死だったんだと思います。もちろん、今も必死ではあるんですけどね。

 でも、最近はあの頃よりも、自分がつくる曲を客観的に見られるようになってきているのかな、と思います。当時は、「もっと作品に入り込まなきゃ!」と考えていましたけど、今はタイアップ作品に触れたときに、「そういえば、こういうお話もあったな」と自分の引き出しから何かを思い出したりして、その要素も参考にしながら作品の魅力をより広げていく方向で曲をつくることもできるようになったので。そんなふうに、もうちょっと自分の中にあるものもくっつけて、広げていけそうだなと考える余裕が出てきたような気がします。

ーー今回は3曲目に初音源化となるTVアニメ『色づく世界の明日から』の挿入歌「color capsule」も収録されています。この曲はアニメの最終話での印象的なシーンで使われていた楽曲ですが、あのシーンは観ながら泣いてしまいました……。

やなぎなぎ:私も泣きました……(笑)。この曲はアニメで(主人公の月白)瞳美ちゃんが幼い頃に失ってしまった「色」を取り戻す場面で使っていただいた曲で、「大切なものを取り戻す」というテーマで曲を書いていきました。タイトルは色の「color」と、タイムカプセルの「capsule」から考えたものです。音も懐かしい雰囲気を出すように意識していったと思います。

ーーアニメ自体にも、未来に帰った瞳美がタイムカプセルを開けるシーンが出てきますね。

やなぎなぎ:タイムカプセルって、本人はどんなものを入れていたのか忘れてしまったりしますよね。たとえば自分への手紙を書いていても、それを開ける頃には何を書いたのか忘れてしまったりして。そんなふうに、「人は大切なものがあっても、それを忘れてしまうことがある」ということを考えて、それならいつか蓋を開けたときに、「色がバーッと出てくるような、それまでの記憶が一気に繋がっていくような曲にしよう」と思いながらつくった曲でした。

ーー今回『memorandum』としてカップリング曲をまとめてみて、改めて感じたことはありますか?

やなぎなぎ:曲を並べてみると、自分の中での音の流行りが顕著だな、と改めて思います(笑)。「このときはこういうことがやりたかったんだな」ということが、自分で聴いているとありありと分かって、ちょっと恥ずかしかったりもしましたね(笑)。

ーービートをひとつとっても、曲ごとに色々な種類のものが使われていますよね。

やなぎなぎ:私は雑食なので、色んなものが好きなんですよ。あとは、自分の中で、「間をつくる」ブームというのが出てきた時期もありました。最初は、曲をつくるときも足し算でつくることが多かったんですけど、最近になるにつれて、引き算でつくることも多くなっていて。同時に、昔は曲の頭からおしりまでを順番につくっていたのに、最近は最初にサビだけをつくって、そこから曲を広げていくことも増えてきました。ここを一番メインに置きたいな、という場所を最初につくって、そこを一番分厚くしてからだんだん要素を取っていったりするというか。その結果、最終的に無音に近くなる場所もあるんですけど、「それでも成立するじゃん」ということを見つけるのが快感になっていった時期があって。「Rain」の頃は、特にそれを意識していた気がします。そこは昔と大きく変わってきた部分かもしれないですね。

ーー『memorandum』はカップリング曲から収録曲を選んで、それをリリース順ではない形で並べた作品ですが、選曲や曲順を決める際にはどんなことを考えていたのですか?

やなぎなぎ:今回はタイトルを『memorandum』にして、日々の覚え書きのような作品にしたので、自分の書き留めておきたいことが強く反映されたものを中心に選んでいます。つくりこんでやりたいという曲ももちろんありますけど、どちらかというとさっき話した「戒めの曲」(「replica」)のように、ふっと湧いたものを曲にしたものが多いのかもしれないです。曲順については、せっかくアルバムにするんだから、聴いていてライブに来ているような感覚になれるように、アルバムを通して起伏が感じられるように考えていきました。

ーーもともとやなぎなぎさんは、作品やライブごとにコンセプトをもうけて作品に向き合うことが多いイメージがあります。そういう作品をつくるようになったきっかけのようなものも思いつくことがあれば教えてください。

やなぎなぎ:私って広く浅く収集癖があるタイプで、たとえば音楽でも、もちろん自分が特に好きなものはありますけど、誰かにオススメされたら聴いてみたりしますし、色々なものを集めたりするのが好きなタイプなんです。自分の好きなものが周りに集まっていると嬉しいし、そのときどんどん知識が増えていくような、自分の辞書が増えていくような感覚がすごく好きで。そうやって、世の中に溢れているものを自分の中に集めて、それを私なりのやり方で世に出していくことが好きなので、それがコンセプチュアルな作品になる理由かもしれないです。

ーー小さい頃から、そういうタイプの人だったんですか?

やなぎなぎ:小さい頃だと、たとえばお花の図鑑を見たりして、「これって食べられるんだ」とか、「こんな薬に使われてるんだ」とか、色んなことを知るのが楽しくて。今では鉱石を掘りに行って集めたりもしているんですけど、それも「昔図鑑にあったものが、今手元にある」という喜びを味わう経験だったりもするんですよ(笑)。

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