『タワーアカデミー』インタビュー

浅田祐介×DÉ DÉ MOUSE×SASUKE 異世代鼎談 三者が考える、今求められる音楽作家の資質

DÉ DÉ MOUSEとSASUKE、音楽制作の原体験

ーーデデさんとSASUKEさんは、今回講師を務めるにあたってどんな心境ですか?

DÉ DÉ MOUSE:実をいうと、これまで僕は人前で数回話させてもらう機会があって。それはApple StoreやRed Bull Studiosでのデモストレーションだったり、大学での講義だったりしたんですけど、そういう場には様々なレベルの人が聴講しに来てくださっているので、誰もが理解できるように話すにはどうしたら良いのかを工夫していました。今回も、あまり専門用語を連発するのではなく(笑)、初めてソフトを触ってみるという人でも「今すぐ始めてみたい!」と思ってもらえるような話し方というものを心がけたいですね。何より自分自身が楽しい気持ちで話せるような、皆さんから色々学ばせてもらえるような講義にしたいです(笑)。

SASUKE:僕自身、話すのは好きな方なんですけど、今までリリースしてきた楽曲についての細かい解説などは、あまりしてこなかったんですよね。話す機会があっても、割と簡単に流れを説明するくらいで終わってしまったりして。せっかくこれまで色々こだわって作ってきたので、それをこうやって話す場を与えてもらえたことをすごく光栄に思っていますね。

 あと、僕はずっと独学でトラックメイキングをしてきたので、あまりマニュアルには載っていないようなヘンなやり方をすごくしていると思うんですよ(笑)。でも、それを他のアーティストさんからは「面白いね!」って言ってもらうことも多いので、何かしら皆さんの参考になったり、役立てたりしたら良いなと思っています。

浅田:実は今回、SASUKEくんにはアナログの機材を一つ用意して、それを使ってみてもらおうと企んでいるんです(笑)。リボンコントローラーの付いたシンセとか、触ったことある?

SASUKE:いや、ないですね(笑)。ミニモーグは触ったことありますけど。

浅田:そっか。何を持って行こうかな(笑)。いや、実は僕もSASUKEくんと同じように、いわゆる音楽的な専門教育というのは受けたことがなくて、ずっと独学でやってきたんですけど、いつも思うのは「正解は目の前にある」ということなんですよ。どういうことかというと、そこにある音楽が例えば不協和音が鳴っていようが、いわゆるハイ落ちしてモコモコのサウンドだろうが、カッコ良ければOKなわけじゃないですか。大事なのは、なぜ作り手がそこでその音を選んだのか、その音像を「気持ちいい」と思ったか、その気持ちのありようなんです。「音楽は、その人の心を映す鏡」ですからね。

DÉ DÉ MOUSE:わかる! 面倒臭い音楽をやっているやつは、100パーセント面倒臭いからね(笑)。

浅田:SASUKEくんはダンスやっているから身体能力が高いと思うんだけど、それでなんで打ち込みなんて始めちゃったの? そのままスポーツやっていた方がモテたじゃん(笑)。

SASUKE:いや、僕は球技全般ダメなんですよ。走るのも苦手で(笑)。ダンスにしても、振付をキッチリ覚えてリズムに合わせて踊るとかじゃなくて、流れている音楽に対して自由に踊っていたのを面白がってもらえただけで。ダンススタジオとかに行くと、必ず振付を覚えさせられるし、生徒たちはみんなすぐ覚えてキレッキレに踊れるんですよ。僕はそれが苦手なんですけど、その代わりフリースタイルではすぐ踊れたんです。その場でかかったどんな音楽、いい曲でもダサい曲でもすぐ対応できるっていう人が、当時誰もいなかったんです。

 で、音楽もその頃にはすでに始めていて。というか、5歳の頃からソフトとかをいじり始めていたらしいんですよね。習うよりも先に遊び始めたというか。両親が音楽好きだったので、家でずっと音楽が流れていたのも大きかったんでしょうね。

浅田:そうだったんだね。デデくんの、音楽の原体験って何?

DÉ DÉ MOUSE:うちも両親が音楽好きで、ラジオから流れている音楽をVHSテープにエアチェックしてたんですよ、「その方が音がいいから」という理由で(笑)。で、そのマスターテープをもとに自分で作っていた洋楽のプレイリストを、僕はずっと聴いて育った。70年代のディスコや80年代のポップミュージックが中心のプレイリストだったんですけど、それが原体験ですね。

ーー先ほど、浅田さんは「音楽は、その人の心を映す鏡」だと話していましたが、皆さんが音楽を作り続けている理由はどこにありますか?

DÉ DÉ MOUSE:僕は、ここ数年でやっと音楽を作るのが好きになってきたんですよ。作り始めた時はもう「焦り」しかなくて。最強のコミュ障だったから、「自分にはこれしかない」って思い込んでいたんでしょうね(笑)。それ以外に希望が見出せないでいたから、音楽でなんとかしなきゃっていう。リミックスのお仕事とかいただいても「うまく作れなかったらどうしよう」「今すぐ作らなきゃ」ってずっと焦ってたんですよね。「そっか、明日締め切りか。じゃ明日作ればいいや」なんて思えるようになったのは、ほんとつい最近(笑)。

 で、今なぜ楽しく音楽が作れるようになったのかというと、インターネットが普及して自分たちが持っている情報を共有し合う新しい世代のクリエイターがたくさん出てきたのは大きいと思います。それまで僕や、僕よりも上の世代の人たちって、クローズドポリシーがカッコよかった世代だから。どうやって音作りをしているか、ターンテーブルやミキサーをどう操作しているか、そういう「手の内」を明かさないというか。

浅田:クラブとかに行って、いい曲がかかっててDJに聴きに行っても教えてくれなかったりしてね(笑)。

DÉ DÉ MOUSE:そうそう(笑)。今はShazamですぐ調べられるんだけど、それよりまず、若いDJたちはみんな普通に教えてくれるし、例えば今使っている機材のこととか、みんな嬉しそうに話してくるんですよね。「デデさん、この機材知ってますか? ヤバイんですよ」って。そういう、新しい世代のクリエイターと接していくうちに、自分の中の価値観がガラッと変わったというか。もちろん、そうやって得た新たな情報が、自分の音楽にもフィードバックされていくし。それが楽しくて仕方ないんですよね。

 さっき僕は最強のコミュ障だと言いましたけど、でも仮にこの世に誰もいなかったら僕は音楽なんか作らないなと思うんです。少しでもたくさんの人に聴いてもらえるチャンスが、曲を作って発表すればあるんだっていう「希望」があるから作り続けているのかもしれないですね。

ーー音楽がコミュニケーションツールになっているということですよね。

SASUKE:僕はもう、単純に音楽が好きで、常に音楽のことを考えていて。例えば「どうやったらシンセで新しい音が作れるか?」とか、「どうやったらいい曲ができるか?」って。そうやって頭の中でずーっと音楽のことを考えていると、気づけば曲が出来ちゃうし、そうするとカタチにしたくなるじゃないですか。

DÉ DÉ MOUSE:すげえ(笑)。

浅田:音楽作るのがイヤになったりすることないの?

SASUKE:一瞬だけありました。今、僕はメジャーでやらせてもらっているんですけど、そのタイミングで「自分が本当にやりたい音楽が出来なくなるかもしれない」って思っちゃったんです。でも、色々やっていくうちに僕は、音楽を「ジャンル」で聴いているんじゃなくて「音楽」そのものが好きなんだなということが分かって。例えば苦手だったり、ダサイと思ってたりした音楽でも聴き込んでみると、いいところって沢山見つかるんですよ。そうしたら、音楽を作るのがまたさらに面白くなってきたんですよね。

浅田:僕は現在、アーティスト活動をしていないので、お二人とはパースペクティブが違うとは思うのですが、実は音楽に失望した時期があって。具体的にいうと、震災の時に「音楽って無力だな」と思ってしまったんですよね。でも、自分自身はどうだったか、音楽は自分にとって無力だったかと考えたときに、そんなことないんじゃないか? って。例えばThe Beatlesを聴いたとき、R&Bに初めて触れたとき、自分の人生が大きく変わるきっかけになっていたことを思い出したんですよね。

 であるならば、音楽というのは世の中を良い方向へ持っていくために、結構有効なツールになるんじゃないか? って。そう思えたからこそ、今も音楽をやり続けていられるんじゃないのかなと思います。作家事務所を設立したのも、ちょうど震災のタイミングだったんですけど、「これからは音楽を作るだけじゃなく、いい音楽を広めるための活動をしよう」と思ったからなんです。自分が歳をとった時、世の中にいい音楽がたくさんあふれているといいなと。今回、『ミュージック・プロデューサーズ・アカデミー』のモデレーターを引き受けた理由もそこにありますね。

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