『キヅアト』インタビュー

センチミリメンタルに聞く、『ギヴン』と自身の共通点「“痛み”はマイナスなものばかりではない」

危なげだが惹きつけられる矢野奨吾の歌声

ーーOPテーマの「キヅアト」は、ブレスの音で始まるところが、とても印象的でした。曲が始まった時に、一緒に息を飲んでしまう感じがありますよね。

温詞:ブレスは、言葉でもメロディでもないのに、意外とそこに感情が籠もるんです。ため息、息切れ、緊張から解けた時、苦しい時。その息によって、気づかないところでハッとさせられたり、共感したりする。だから僕は、レコーディングでもブレスを大事にしていて。始まる時に息を吸う音もそうですけど、フレーズが終わってからのブレスを残すことも多いんです。アニメ『ギヴン』も、ブレスを大事にしていると思いました。

ーーそれは、どういうところですか?

温詞:ティザー映像がブレス音で終わっていたし、MVも歌い始める前のブレスのシーンでカットされています。息を吸うというのは、大きな声を出すのか歌い出すのか、何か行動をする前にすることだから、すごく期待感をあおる部分もあるんだと思います。曲を聴く時にも、そこばかりに気を取られては困るけど、要所要所で使っているので、そこも含めて楽しんでもらえたら嬉しいですね。

ーー「キヅアト」は、センチミリメンタルの曲であり、アニメ『ギヴン』のオープニングテーマでもあります。どういう意識で制作を?

温詞:オープニングテーマは作品の入り口になる曲なので、大きな責任を担うと思ったし、アニメ『ギヴン』の顔である部分とセンチミリメンタルの曲という部分、両方とも100%でなければいけないという使命感がありました。なのでオープニングで使われるアニメサイズでは、僕が本来得意とするピアノやストリングスのアレンジを封印し、ギターとベースとドラムというバンドサウンドをメインにして、それ以外の音はなるべく削りました。ストリングスなどは2番以降で出てくるので、フルサイズで聴いた時に『ギヴン』とセンチミリメンタルの100%同士が、上手く一つに繋がれたらいいなと思いました。

ーーテレビサイズだけを先に作ったんですか?

温詞:はい。だからフルサイズに出てくるDメロもなくて。何なら最初は、劇中バンドのギヴンの曲として、佐藤真冬くん(Vo/Gt、CV:矢野奨吾)が歌うという可能性もあった中で作っていたんです。だからセンチミリメンタルが歌うと決まった段階で、先ほどお話したような気持ちでフルサイズを作りました。

ーーEDテーマで劇中バンドが歌う「まるつけ」には〈寂しさは凶器だ〉というフレーズが出てきて、原作のセリフにも「この歌は凶器だ」という言葉が出てきます。そういうところは、原作を意識したのですか?

温詞:実は「まるつけ」は、2015年ごろに自分で弾き語りライブをする用に作った曲で、書き下ろしではないんです。その時すでに「まるつけ」というタイトルだったし、この歌詞もすでに書いていました。だから、そこからも『ギヴン』と僕が書く曲との世界観の近さを分かってもらえると思います。僕としては、もう4年も前に作った曲だから「まさか!」と思ったんですけど、改めてコミックを読み返して曲を聴き直したら、びっくりするほど相性が良くて。出てくる単語で共通するところも多かったし、世界観も重なっていて。これも本当に運命的な出会いだったんだなって。当時は本当にラフな状態で、デモテープもまともにないくらいだったんです。それに僕がまだ“ねえ、忘れないでね。”名義だった頃に発表した「ラブソング」という曲と同時期に作っていたんですが、当時は「ラブソング」のインパクトがあまりに大きくて。だから、まさかこんな大出世をするとは思ってもみなかったです。

ーー1話のエンディングでは、ピアノだけのバージョンが流れて、真冬がバンドメンバーになった2話から歌入りのバンドバージョンが流れるという演出が絶妙でしたね。

温詞:歌声をネタバレしないようにということで、ああいう形になりました。ピアノバージョンも、僕がアレンジと演奏をしていて。僕はピアノが好きなので、ピアノアレンジも楽しかったですね。ギヴンのサウンドプロデュースも僕がやらせていただいて、真冬役の矢野奨吾さんのボーカルディレクションや、劇中で「冬のはなし」が完成する前に、上ノ山立夏役(Gt)の内田雄馬さんが「ラララ」で歌うシーンのディレクションも手がけさせていただきました。

ーー矢野さんの歌はいかがでしたか?

温詞:バンドボーカルの持つ歌声の美しさと、声優さんの声としてのボーカルの美しさというのは、やはり違いがあって。いかにバンドボーカルとしての美しさを表現できるかというところは、ディレクションの中で意識したところです。

ーー具体的にどんな違いがあるんでしょうか。

温詞:声優さんは滑舌がとても良くて、一文字ずつの粒立ちが非常に良いんです。でもバンドボーカルは真逆で、人によっては滑舌よりリズムや響きの美しさを重視します。だから、なるべく粒をならしていくと言うか、一文字ではなく1フレーズや1つの感情でくくっていけるようにディレクションしました。ただ、少し僕の歌い方に近づけすぎちゃった感がありますけど(笑)、あくまでも僕の中にある美しいバンドボーカル像を共有できたらと思いました。ギヴンとセンチミリメンタルは同じアーティストではないけど、同じ作品の扉と終わりの扉なので、そこに共通点があったほうが世界観を統一できると思って。

ーー矢野さんは他の作品でもキャラクターソングを歌っていて、今後は声優アーティストとしてのソロデビューにも期待が寄せられています。温詞さんから見て、矢野さんのボーカルの魅力は?

温詞:僕は今回、声優さんを決めるオーディションから参加していて。歌がすごく上手な方はたくさんいらっしゃったんですけど、真冬くんは、最初からボーカリストだったわけではないので、歌い手としてのテクニック面をあまり重視しても違うと思っていました。そこで矢野さんの声を聴いた時に、単純に声としての魅力や、危なげだけど惹きつけられるものがあるみたいな、そういうボーカルの力を持っているなと思いました。それこそが、真冬くんらしさなのかなって。真冬くんは、いち学生だけどその先にのびしろが見えるという役で、その中にある弱さと強さというバランスも考えながら、みんなで会議をした結果、僕らが思う真冬くん像とマッチしたのが矢野さんです。

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