KREVA、『AFTERMIXTAPE』を作り上げた真意 「世界では自分が求めてたことが起こってる」

KREVAが語る『AFTERMIXTAPE』の真意

 KREVAが新作『AFTERMIXTAPE』をリリースした。ソロデビュー15周年を迎え9カ月連続リリースを行ってきたKREVAが、その最後に用意していたのが全曲新曲のオリジナルニューアルバム。ただし、彼いわく、新作は「アルバム」ではなく「ミックステープ」なのだという。

 その真意はどういうところにあるのか。KREVAが今のヒップホップカルチャーをどう見ているのか。9月26日に開催される主催フェス『908 FESTIVAL 2019』の構想も含め、様々な角度から語ってもらった。(柴那典)

“ミックステープ”の枠組みが開いた制作の突破口

ーータイトルの『AFTERMIXTAPE』は、ヒップホップカルチャーにおける「ミックステープ」という形式から来ているわけですよね。これはどういう意味を込めた言葉なんでしょうか?

KREVA:なんでミックステープかと言うと、まずKREVAソロ15周年企画として9カ月連続リリースをするという話をしたときに「最後は新曲で締めくくりたい」という話をもらっていたんです。「何かしらの形で最後に新曲をリリースするのが着地としてはいいでしょう」と。

ーーそのアイデアがまずあったんですね。

KREVA:でも、新曲を1曲だけ出して、それをソロ15周年と9カ月連続リリースの締めくくりにはしたくないな、と思ったんです。そうしたら、その曲に全部を象徴するような意味が出てくるじゃないですか。そうじゃなくて、曲のまとまりで出したい。でも「アルバムじゃないよな」って感じだった。あれだけ頑張って録った『成長の記録 ~全曲バンドで録り直し~』が6月に出て、またすぐアルバムを作ろうっていう気持ちに全然なれなかったし。ただ、曲がまとまったものを出したいという気持ちはあったから、それでミックステープを思いついたんです。ミックステープを作ってみたいという気持ちは前からあったから。そうしたら、どんどん曲ができるようになった。不思議なんだけど、呼び方を自分で変えただけでこんなにも変わるのかっていうぐらい。

ーーミックステープの形式をとることで、なにか蛇口を開けた感じがあった。

KREVA:そうですね。本当に呼び方を変えただけなんだけど。それに、自分がこの場合に言うミックステープって、近年のドレイク以降のコマーシャルミックステープみたいなもので。

ーーミックステープにもいろんな歴史があって、特にヒップホップカルチャーを追ってない人間にとっては、アルバムとミックステープの違いがよくわからないとも思うんですけれども。

KREVA:ヒップホップにどっぷりハマってる人も、わかる人は本当に一握りだと思いますね。たとえばドレイクだって『More Life』を出したときに「これはアルバムじゃない、プレイリストだ」って言ってて。あれなんて、Drakeのさじ加減じゃんって思うんですよ。こっちからすると「アルバムだよ」っていう。そういう類のミックステープが出せればいいなとは思ってましたね。

ーーチャンス・ザ・ラッパーだって、今年に出た『The Big Day』がようやく初めてのアルバムで、『Coloring Book』とかこれまでに出した作品は全部ミックステープだって言ってましたよね。

KREVA:まあ、聴く方からすると、良い作品であればミックステープだろうがなんだろうが関係ないって気持ちはありますね。

ーーでは、KREVAさんなりの定義でのアルバムとミックステープの違いってどういうところにあるんでしょう? ミックステープと呼び方を変えたら曲ができてきたということは、そこがなにかしらあったと思うんですけれども。

KREVA:自分が感じているのは、アルバムと呼ぶものには何かしら一貫性だったり意図して貫いたテーマだったりが求められるけれど、ミックステープは日々曲を生み出していく中でできてきたものの集合体っていう感じかな。つながりも考えず、とにかく心のままに、良いと思ったらすぐ作っちゃう。とにかく楽しいから作る、いいと思ったら歌詞を書く。それを続けてきた感覚ですね。

ーーなるほど。で、タイトルの話に戻ると『AFTERMIXTAPE』ということは「今の時代はもはやミックステープ以降の時代」という意味を込めているのかと思ったんですけど。

KREVA:そうそう。まさにその意味を込めてました。さっきの話で言えば、ドレイクは呼び方をあえて壊しにかかってきてるわけで。そういう時代に「曲の集合体」ってなんだろうって。それに、最初は本当にミックステープを作ってたつもりだったんだけど、でも、レコード会社のスタッフ、事務所のスタッフと話すと「まず、ミックステープとはなんぞやっていう説明をしなきゃいけない」ということになって。だから、この状況で無理やり我を通して「ミックステープなんです、ニューアルバムって言わないでください」とか言ってもしょうがないなって。みんなはアルバムって言ったほうが売りやすいし宣伝もしやすいだろうから。それで、名前に「ミックステープ以降」という意味を込める。そこに着地した感じですね。

ーーKREVAさんは、ミックステープの手法によって、カルチャーやシーンはどう変わったと思いますか? もしくはアーティストはどう変わったか。

KREVA:“ミックステープゲーム”みたいなものがあったとして、それに勝った人は、DJにしろラッパーにしろ、とんでもない量の仕事ができる人だと思うんですよ。リル・ウェインがむちゃくちゃミックステープを出していた頃は、マックスで月にアルバム5枚ぶんぐらいの新曲が出てきていたし。それに、ちょっと昔だったらDJが勝手にどんどんリミックスを出したりして、仕事量と情報量で勝負してた頃もあったし。

ーーどんどんペースが早くなっている。

KREVA:そうですね。ただ、それはグレーな領域の話でもあったんだけど、ストリーミングの時代になって、表立ってそこで勝負できるようになった感じはあると思いますね。フューチャーだって、言ってることは全曲同じような話だったりするそうだけど、リリースペースを落とさないでやり続けてる。そういうゲームをオフィシャルな場所に持ってきた。だからミックステープっていうのは、どんどんレコーディングできる人には強い時代だな、というのは思いますね。

ーー『存在感』の取材のときに「言いたいことがない」って言ってましたよね。スタジオには行くけど、メッセージがないという。それに対してもミックステープという枠組みが突破口になったという実感はあります?

KREVA:そんな感じはします。自分で勝手にフタをしてただけで「ミックステープだったらこれも書いていいよな」って思ったら、どんどん歌詞が書けた。女性の目線だったり、自分のアルバムではやめとこうかなって考えてしまうような曲も、ミックステープだと思うと躊躇なくいけた。たとえば「アイソレーター」って曲はピンポイントで「こういう人やだよね」みたいなことを言ってる曲なんだけど。アルバムだったら、いろんなこと考えてやらなかったかもしれない。でも、ミックステープだったらいいや、って。

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