KREVA、『AFTERMIXTAPE』を作り上げた真意 「世界では自分が求めてたことが起こってる」

KREVAが語る『AFTERMIXTAPE』の真意

音楽に関しての閉塞感はあまり感じてない 

ーー今作は全体的に2分台の曲が多いですよね。全体が短いというのも、今言ったこととつながっていますか?

KREVA:それはありますね。ミックステープを作ろうと思った時に、こういうテーマでこんな曲調が入っていてとか、そういうことは一切考えなかった代わりに、10曲以上入ってるけど30分ぐらいっていうイメージがあったので。あとは、今のトレンドとしてトラックの途中で曲がBPMを含めて完全に変わるものがあるから、そういうのもやりたいなと。

ーートラヴィス・スコットの「Sicko Mode」とか?

KREVA:そうそう。躊躇なくズバッと変わる曲が多いですよね。そういうものを入れたいっていうのは思ってました。なんでかというと、ミックステープってトレンドが入ってるものだと思うから。自分のアルバムだったらもっとしっかり必然がある曲作りをやると思うんだけど。ミックステープだから、やってみたいからやってみようと思ってました。

ーーあと、たとえばポスト・マローン&スワエ・リーの「Sunflower」みたいに、今の時代、2分台でさらっと終わる曲が増えてる気がするんです。ループを組んでそのループが途切れたとこで終わる、というか。

KREVA:間違いない。

KREVA 「敵がいない国」(Music Video Short ver.)

ーーそれで言うと、『成長の記録 ~全曲バンドで録り直し~』はバンドの演奏で、基本的にバンドの演奏はきっちり終わる作り方なわけじゃないですか。それと対照的で、今回の作品は1〜2分でさらっと終わるものが多い。「アイソレーター」とか「敵がいない国」とか、まさにそうですよね。

KREVA:最初にトラックを組んだ長さのまんまですね。そこに歌詞を乗せたら完成になるんですよ。そこで終わり。

ーーそれは時代感やトレンドの意識なのか、もしくは個人的なクリエイティブの理由なのかで言うと、どうでしょう?

KREVA:両方かな。まず世の中的に、集中力の持続する時間が短くなってきてるんじゃないかなっていうのは思っていて。動画がこれだけ手軽に見れるようになると、音楽だけに集中するのは難しい。そういうことを考えていたので、曲は短くしたし、あとは、単純に自分が好んで聴いてる曲もタイトに終わる曲が多かった。両方だと思います。

ーーなかでも「敵がいない国」は、とても象徴的だと思うんです。これはどういう風に作っていったんですか?

KREVA:これはトラックがとにかく気に入っていて、絶対にこれは収録したいから形にしてやろうと思って、頑張って歌詞を書いた感じですね。トラックはまずベースラインが好きで。で、クラウド上にループがいっぱい入ってるシンセがあって、その中のネタと組み合わせたらフレッシュだなと思って、あの長さのトラックができた。そこに、7〜8年前ぐらいに思いついてた「敵がいない国」ってフレーズをあてはめてみたら、すごくハマったっていう感じ。

ーー今回の新作って、トラックメイキングは基本的に同じ手法?

KREVA:だいたい同じですね。「One feat. JQ from Nulbarich」は違うし、あと「それとこれとは話がべつ! feat. 宇多丸, 小林賢太郎」は、思いついたのが4〜5年前だからトラック自体も古い。「Don't Stop Y'all, Rock Rock Y'all」も元は古い。その他の曲は同じ手法でどんどん作っていった感じです。

ーー聴いた感触としてはサンプリングミュージックの感じとプログラミングの感じと両方あるなと思ったんですけれど。実際はどういう感じで作ってるんでしょう?

KREVA:鍵盤の上に3オクターブぶんぐらいサンプルを並べて、それをチョップしたり、カットアップしたり、キーを変えて弾いてみたり、だいたいそうやって作っていく感じですね。さっき言ったクラウド上にサンプルがあるシンセを使って、そこから気になった音を選ぶ。3日に1回ぐらいは必ず新しいサウンドが更新されて出てくるんですよ。

ーー前々から機材に刺激を受けるって言ってきましたけど、それも新しい刺激になりました?

KREVA:そうですね。毎月お金を払うと使えるネット上で一番勢力を持ってるサンプルタンクがあって、最近だと、J・ディラがリアルに使っていたドラムセットがアップされたり、いろんなものが上がってくるんです。でも自分は、それとは違うやつをある日使い始めて。使ったら、めちゃくちゃ面白い。みんなが使えるサンプルだから躊躇する気持ちもあったんですけど、いざやってみたらもう面白くてそれどころじゃなかった。

ーー機材やソフトの面でも、なんらかのブレークスルーがあった。

KREVA:そうですね。特にミックステープだと思ったら曲調の統一感もいらないと思ったし。とにかく楽しく曲を作ってた感じです。

ーー「One feat. JQ from Nulbarich」と「それとこれとは話がべつ! feat. 宇多丸, 小林賢太郎」については、違うタームで作っていたということですけれど。

KREVA:そうです。なんなら「今回はミックステープだから入れない感じですかね?」って話もされたんだけど。「いや、ミックステープはいい曲が惜しげもなく入ってるもんだから、絶対に入れる」って言って。長い時間かけてしっかり作ってきたものだけど、今回は入れました。

ーー「One feat. JQ from Nulbarich」はどんな風にして作った曲ですか?

KREVA:きっかけは2018年の『908 FESTIVAL』ですね。そこにJQが出ることになって、ミーティングをして。その時点で、新曲を作ろうという話になった。JQのほうにこんな感じの曲にしたいというイメージもあったんです。自分は広い世界を歌うけどKREVAさんは強いラッパーとしていてほしい、みたいなことを言ってくれて。そこからデモが上がってきて、何回かやり取りをして、武道館で実際に披露した。で、その時の感触がすごく良かったんで、JQにあれを今度バンドで録り直してみてもいいかという話をして。で、『成長の記録』のレコーディングの最後にみんなで録って、そこからJQとまたやり取りしてできあがった曲です。

ーー「それとこれとは話がべつ! feat. 宇多丸, 小林賢太郎」は?

KREVA:詳しい時間軸は覚えてないんですけど、少なくとも4年くらい前に「それとこれとは話がべつ!」ってフックを思いついて。で、宇多丸さんにラップしてもらったらヤバいぞ、小林賢太郎さんも入って面白い話をしてもらったらやばいぞっていう構想はあったんです。だけど宇多丸さん、小林賢太郎さんにオファーするタイミングがなかなかつかめなくて。で、宇多丸さんは『ウィークエンド・シャッフル』が終わるタイミングでお願いして。

ーーそれもわりと前のことなんですね。

KREVA:そうです。だから相当長いです。小林賢太郎さんも付き合いは20年近くだけど、お互いの現場で仕事することがほとんどなくて。で、今年1月に『小林賢太郎テレビ19 "X"』(NHK BSプレミアム)に出させてもらったときに、コントを一緒に作って。その直後に声をかけたら快く引き受けてくれたっていう。

ーー宇多丸さんと小林賢太郎さんって、日本が誇る2大カルチャー・ストリートワイズだと思うんですけれどーー。

KREVA:そう! 上手いこと言うなあ!

ーーそういうカードを切った実感はありますよね。

KREVA:まさに。実現したらある界隈がざわつくことは間違いないと思ったし。だからこそちゃんと作ろうと思いましたね。で、小林賢太郎さんと最初にいろいろ話ができて。「それとこれとは話がべつ」にはこういうパターンがあるって言って、ショートショートみたいなのを全9話くらい書いてくれて。それを参考にまずは自分が書いて。で、書いてみたら小林賢太郎さんに「こういう角度でこういうタイプの人を傷つける可能性があるからやめたほうがいい」って言われたりして。それを書いて、最後に宇多丸さんが書いた。宇多丸さんは、最初は「ついに宇多丸がKREVAの作品に参加する」ということから考えていったんだけど、小林賢太郎さんと俺が準備したのは匿名性のある舞台で。この二律背反をクリアしてバースを書くのに苦労したって言ってました。でも切り口が見つかってからは早かったって。

ーー「無煙狼煙」は武道館で披露された曲ですが、これは?

KREVA:これも手法としては「敵がいない国」と同じ手法ですね。トラックが気に入ってたんで頑張って歌詞を書いた。で、あのタイミングで「無縁狼煙」をやるということは決まってなかったけど、武道館の最後には新曲をやって終わりたい、その曲をリリースしたいって気持ちはあったんです。で、どの曲をやるかについては、みんなに決めてもらった。そうしたら「無煙狼煙」でいきましょうっていう感じでした。

ーー「無煙狼煙」のリリックの中に〈閉塞感〉という言葉がありますよね。これって、KREVAさんのリリックの中で度々出てくるキーワードだと思うんですけれど、そこについては今はどんな風に感じていますか?

KREVA:閉塞感については、常々感じてますね。だから何度も出てくるんだと思うけど。

ーー今の時代感としてはどうでしょう? 引き続きずっと閉塞感がある時代とも言えるし、一方で、最初に話をしたミックステープ以降の時代という意味では、どんどん状況は変わってきているとも言えると思うんですが。

KREVA:音楽に関しての閉塞感はあまり感じてないですね。音楽業界でやっていくこととか、日本で生きていくこととか、そういうことには今もやっぱり閉塞感を感じてるという感じですけど。音楽を聴いて楽しいし、音楽の自由さについては、全然閉塞感は感じてない。

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