King Gnu、ツインボーカルの強みと存在感 大坂なおみ出演ANAテレビCM曲「飛行艇」を分析
King Gnuが8月9日にリリースした新曲「飛行艇」のミュージックビデオが公開された。この曲は、テニスプレイヤーの大坂なおみが出演するANA国内版TVCM「ひとには翼がある」篇のCMソングとして書き下ろされたものだ。
重心低めの4ビートが全編にわたって鳴るなか、上物は音を大胆に歪ませながら大らかにメロディを歌う……バンドアンサンブルの力強さ、泥臭さが打ち出されている「飛行艇」。この曲を聴いてまず思い浮かんだのが“スタジアムロック”という言葉。ライブで拳を突き上げながら歌う観客の姿が思い浮かぶような――しかもライブハウスではなくもっと広大な会場で観客がシンガロングしている光景がイメージできるほど、スケールの大きなサウンドが鳴らされている。
そもそも、King Gnuというバンド名の由来は、ロックバンドが老若男女からの視線を集めながらスターダムへと上りつめていくストーリーを、ヌーの群れがどんどん拡大していく様子に見立てたことにある。また、バンドのソングライター・常田大希(Gt/Vo)はインタビューなどでよく、かつてOasisがイギリスで大合唱を起こしたように、King Gnuの曲で大合唱を起こしたい、そういう種類の熱狂が好きなのだという趣旨の発言をよくしている。それらを踏まえると、「飛行艇」はこれまでのKing Gnuになかったタイプの曲ではあるが、一方で、バンドのコンセプトとかなり近いところにある曲だとも言うことができるだろう。イントロが始まる前の歓声は、スポーツ大会を観に来た人々の声にも聞こえるし、ロックバンドの登場に熱狂する観衆の声にも聞こえる。
King Gnuの曲は、もはや全部サビなのではないかと思えるレベルでボーカルのメロディラインのフックが強い傾向にあるが、CMで使用されている箇所をサビとすると、「飛行艇」はAメロ→サビ→Aメロ→サビ→Bメロ→サビという構成。またそれぞれのブロックでボーカルはひとつのフレーズを繰り返すのみで、譜面的には非常にシンプルだ。
さらに注目したいのがサビのメロディ。サビでは井口理(Vo/Key)と常田がオクターブでハモりながら主旋律を歌っているほか、エレキギター(歪みまくっているためオートチューンのようにも聞こえる)やグロッケンのような音も同様の動きをしている。また、このメロディはイントロ、間奏、アウトロで登場するリフを発展させたものだ。
一般的に人は、繰り返し接触したものに対して好感を持ちやすい傾向にある(これを心理学では“単純接触効果”と呼ぶ)。曲の構成をシンプルにし、曲の中で登場させるメロディの種類を絞ること。その中でも特に強調したいメロディを繰り返し登場させ、ある種の親しみを演出すること。それらが聴き手の“一緒に歌いたくなる”気持ちを誘発させる仕掛けとして機能することにより、常田の目指す“King Gnuの曲で大合唱が起こる光景”が実現しそうな予感だ。