リル・ナズ・Xは、なぜブレイクを果たした? 「Old Town Road」全米17週連続1位の背景

 とはいえ、ソーシャルメディアでのバズをヒットにつなげること自体は、今の時代さほど珍しいことではない。この曲の話題性に拍車をかけたのが、ビルボードのジャンル変更問題だ。「Old Town Road」が総合シングルチャートとヒップホップ/R&Bチャートだけでなく、カントリーチャートにもランクインしたことをうけたビルボードは、同曲が「カントリーとしての要素を十分に含んでいない」と判断し、チャートから除外。これにアーティストやファンは反発し、ビルボードに対して「人種差別的だ」という批判がぶつけられる。

 この騒動がまたひとつのトリガーとなり、「Old Town Road」はついに「Hot 100」で1位を獲得。その後、カントリーチャートにも復帰を果たしている。そして決定的だったのが、カントリー歌手のビリー・レイ・サイラスが同曲のサポートを表明したことだ。

Lil Nas X - Old Town Road (Official Movie) ft. Billy Ray Cyrus

 ビリーはこの曲を「はじめからカントリーだと思っていた」と表明し、これがきっかけでビリーが参加した同曲のリミックスバージョンが制作される。オリジナル版とビリー参加のリミックス版がどちらも人気となったこと。チャートのルール上、その2バージョンのセールスが合算されて集計されることによって、「Old Town Road」は圧倒的な強さでチャート首位を保持しつづけることになるのだ。

 ちなみに、ビリーが「Hot 100」入りを果たしたのはこれが5年ぶりとなるそうだが、その5年前にチャートインした曲は、Buck 22がビリーの代表曲「Achy Breaky Heart」にラップを挿入した「Achy Breaky 2」。つまりビリーは以前にもカントリーラップを実践していたのだ。

 そう、カントリーラップというスタイル自体は今にはじまったものではない。記憶に新しいところでは、ヤング・サグが2017年に発表したミックステープ『Beautiful Thugger Girls』はまさにカントリートラップを先駆けていた一枚。実際、リル・ナズ・Xもヤング・サグをこのジャンルのパイオニアとして位置づけているようだ。

 それにしても、「Old Town Road」の大ヒットはあまりにも突出していると言わざるを得ない。前述のようにオリジナルとリミックスがどちらも爆発的にヒットしたことに加え、新たなビデオやリミックス版が制作されつづけ、それがさらなるバズを起こしていることも、このロングヒットの大きな要因となっているようだ。

 ただ、あくまでもそれは戦略性についての考察であり、「Old Town Road」という楽曲がここまで支持された理由の説明にはならないだろう。個人的には、カントリーのイメージを全面的に打ち出した「Old Town Road」がこれほどまで人気を集めていることと、ここ2年ほどアメリカのメインストリームがすこし保守的な傾向になっていることは無関係ではないように感じるのだが、実際はどうなのだろう。

 いずれにしても、ソーシャルメディアを攻略した話題作りはもちろん、その音楽性も含めて、「Old Town Road」はあらゆる意味で2019年を象徴する楽曲だと思う。こうしている間にも「Old Town Road」は最長No.1記録をさらに更新。どうやらこの勢いはまだしばらく続きそうだ。

■渡辺裕也
文筆業。ミュージック・マガジン/サイン・マガジン/MUSICA/音楽と人/クイック・ジャパン/Mikiki/OTOTOY/ビルボード・ジャパン/ナタリー/月刊ラティーナ/ロッキング・オン・ジャパン等に寄稿。

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