『宇宙』インタビュー

loundraw×HIDEYA KOJIMA、CHRONICLEの成り立ちと“アートの力”を信じた表現方法を語る

フィクションだけれどフィクションではないリアリティを描いた物語

――物語を着想する段階でも、色々な方向性になる可能性があったと思うのですが、loundrawさんが最初に考えていたのはどんなことだったのでしょうか?

loundraw:最初に考えたのは「スケールの大きな物語にしたい」ということでした。音楽は色んな人に響くし言語を越えて響き伝わるものなので、スケールが大きくて、観てくれた人がワクワクしてくれるようなストーリーにしたいと思っていました。そのうえで、最初に出てきたのが、「歌と声をモチーフにした世界観にしよう」というアイデアだったんです。音楽は、たとえば4分の曲を聴いただけでも、聴く前と後では気持ちや景色が変わって見えたりしますよね。そういう神秘性を持っているものだと思うので、「声と歌」を主軸にした物語を音楽/ビジュアルでも表現できれば、面白いものになるのではと思いました。それで、KOJIMAくんやT.B.Aにも「声や歌をテーマにした物語にしたい」と伝えました。

音楽から生まれる物語。”CHRONICLE"の始まりを告げる「宇宙」予告編アニメ映像

――なるほど。「宇宙」予告編アニメ映像からも「声や歌をテーマにした作品」であることは伝わってきますね。この映像では渋谷を舞台に「柏木 一樹(かしわぎ いつき)」と「一ノ瀬 空(いちのせ そら)」という2人の男女の物語が描かれていて、映像の後半にCHRONICLEのデビュー曲となる「宇宙」が使用されています。

loundraw:「宇宙」予告編アニメ映像は、パートとしては大きく分けてインストの部分と「宇宙」のサビが流れる部分がありますが、インストが流れる前半部分に関しては、僕がKOJIMAくんに「ここで映像を切りたい」などと細かく音のディレクションをしていきました。逆に「宇宙」が流れはじめる後半については、僕が「宇宙」に合わせて映像を考えています。「宇宙」を最大限に映えさせたい1分半の映像ですので、モノローグにも気を使っていて、歌詞とクロスオーバーするような台詞を色々と入れています。台詞だけでは説明しきれていないけれど、曲が流れることで台詞が繋がっていく、というところまでこだわって仕上げていきました。この映像に登場するキャラクターに関しても、『CHRONICLE』でどういうものを伝えたいかということを考えていく中で生まれています。

――中でも、映像の中に出てくる渋谷のスクランブル交差点のシーンが印象的だったのですが、このシーンを登場させたのはどんなアイデアからだったのでしょうか?

loundraw:制作開始時点ですでに曲ができていたので、その歌詞と物語から映像を連想していくときに、まず女の子の境遇が浮かびました。この子が「ネットで音楽を配信しているけれど、全然人気がない。そこで何かを変えたいと思って、初めて路上に弾き語りをしに行く」というのが物語の最初の筋として出てきたんです。今の時代はインターネットを使えば何でもできるようにも思えますけど、実際はそうではないですし、リアルも大事にしていかなきゃいけない。そのとき、「この子が向かう場所はどこだろう?」と考えて出てきたのが、渋谷のスクランブル交差点でした。日本でも屈指の交通量がある場所に、本当は不安もあるはずの女の子が、自分のギターだけを信じてひとり立ち向かうというのは、とてもエモーショナルだと思ったんです。

――実際、渋谷のスクランブル交差点は、夢を追っている多くの人たちが日常的にすれちがっている場所でもあるかもしれません。

KOJIMA:そうですよね。実際、僕もそうです。

loundraw:渋谷はそういうイメージがある場所なのかな、と思いますね。

――予告編映像を見る限り、途中で別の登場人物/別の物語がフラッシュバックして見えるような瞬間もありますよね。これも非常に気になるところなのですが……。

loundraw:それがどういうシーンで、どういう人物の話なのかは今は言えませんが、そのシーンは分かりやすい伏線としてあえて入れた部分です。実は、「宇宙」の予告編アニメ映像には、他にも伏線が数えきれないぐらい入っているんですよ。あの予告編アニメ映像は、柏木 一樹と一ノ瀬 空2人の話でもあると同時に、CHRONICLEという大きな物語自体を示したものになっているので、その部分も色々と想像していてもらえると、とても嬉しく思っています。

――また、『CHRONICLE』の登場人物は、どこか喪失感を抱えているようなキャラクターになっていると思います。ここにも何か込められた気持ちがあるんでしょうか。

loundraw:ありていに言って、少年少女は悩むものだと思うんですよ。しかも、そういう人たちにとって、「音楽」はすごく大きな意味を持つものだとも思っていて。実際に、僕自身も曲を聴いたら思い出す過去があったりしますし。なので、喪失感を感じている少年少女が曲に導かれるような構図は、すごく自然だし、綺麗だと思いました。曲に依存しきっているわけではなくて、最終的には自分で立ち向かわなければいけないけれど、そのきっかけを形のない芸術がくれるというのは、とても美しいことじゃないかな、と。

――もしかしたら、この物語には、loundrawさん自身の音楽とのかかわり方が反映されている部分もある、という感じですか?

loundraw:そうですね。もっと言うと、音楽を含めた「芸術」との関わり、というのが正確かもしれません。僕ももともとは就職しようと考えていた時期もありましたし。KOJIMAくんもそうだと思いますけど、芸術が自分の存在意義や人生を決めてくれた大きなもののひとつでもあるので、そんな要素も『CHRONICLE』の物語の中に落とし込めればいいな、と思っていました。その「フィクションだけれどフィクションではないリアリティ」って、僕はすごく面白いなと思うんですよ。

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