全米1位を獲得した最新作『マダムX』から紐解く、マドンナの“闘い続ける姿勢”
マドンナが4月にリリースした「Medellín (Madonna + Maluma)」は、コロンビアのレゲトンシンガー、マルーマとデュエットした官能的なラテンポップ曲。歌詞の序盤に〈あの頃は世間知らずでもよかった〉と17歳の頃を振り返るフレーズがあった故、もしかするとアルバムも自身の人生を回想するトーンになるかと思いきや、そこはマドンナ、そんなことはなかった。やはりマドンナは今を生きている。過去の何かにしがみついているところがまるでなく、自分がやったことのない音楽に挑戦し続けていて、新境地に思える曲が次々に出てくる。人々の求める“マドンナらしさ”に応えて得意なパターンの曲で“当てに”きても文句は出ないだろうし、むしろそっちを喜ぶ人も少なくないだろうが、60歳にしてそうした保守性が皆無だ。
音楽の折衷によって醸し出される独特の趣と郷愁
4年ぶり、14枚目のオリジナルアルバム『Madame X』。サッカーの才能を発揮する息子デビッドのため2017年にポルトガルの首都リスボンに移住したマドンナが、ポルトガルの音楽とそこで日常的に聴いている音楽(サンバからレゲトンまで)の影響を受けてじっくり作り上げた力作である。プロデューサーは『MUSIC』(2000年)で大抜擢して以来付き合いの長いミルウェイズをメインとし、ほかにディプロ(メジャー・レイザーほか)、マイク・ディーン(トラヴィス・スコット、カニエ・ウェストほか)、ビルボード(ケシャ、アリアナ・グランデほか)ら。レコーディングはポルトガル、ロンドン、ニューヨーク、ロサンゼルスで行なわれ、ポルトガルではアフリカ系ポルトガル人シンガーのディノ・デ・サンティアゴがその地のミュージシャンを多数紹介するなど尽力したそうだ。
2曲目「Dark Ballet」はホラーに合いそうなダークな前半からチャイコフスキーの「くるみ割り人形」をサンプリングした後半へと大胆に展開が変わる曲。次の「God Control」は「Like a Prayer」(1989年)を思い起こさせるゴスペル風の前半からハウスへと展開する曲。このように組曲的な作りの曲が明るいだの暗いだのポップだのアートだのといった評価基準を無効にしていて聴き応えあり。そしてアフリカンビートとマーチングバンド的な音とが混ざった上で女性たちが合唱する「Batuka」以降の曲では、カーボベルデの音楽だったりポルトガルのファドであったりがいろんな形で折衷され、哀愁や郷愁がいい塩梅に立ちのぼる。上述の大胆なる組曲的構成の面白さ、それと多文化の音楽の折衷によって醸し出される独特の趣と郷愁。それはこれまでのマドンナ作品になかったもので、まさしく新境地と言っていい。