『Beloved One』インタビュー
黒崎真音が語る、音楽で育まれた“自分らしさ”と“歌への愛情”「みんなと愛が共有できるようになった」
「音楽だと闇を前面に押し出してもOKじゃないですか」
ーー実際、黒崎さんが書いた「A.I.D」の詞はゾンビもののホラー仕立て。しかも主人公は結局ゾンビになっちゃっているから、我々がイメージする救済はなされていません。
黒崎:私、普段から「なんらかのウイルスがどこかからやって来て、それに感染してしまうんじゃないか」「ヤバいな」って不安になる瞬間がけっこうあるんですけど、ほかの人に伺うと……。
ーーはい、ないです(笑)。
黒崎:そうなんですよね。皆さんはゾンビ映画的な恐怖感を普段からお持ちではないみたいで(笑)。だからこそ面白いかな、と思って作ったのがこの歌詞なんです。ゾンビに噛まれたことで、だんだんそのウイルスに侵食されて自分じゃなくなりつつあるから〈キミ〉の手で〈僕〉を殺してくれ、っていう。
ーーでも〈キミ〉は〈僕〉に手を下してないですよね?
黒崎:だから〈キミの声 掻き消した右手〉と、自分で自分の存在をなきものにしたんです。
ーーそして〈これが僕のA.I.Dだ〉と結んでますけど、これ、救済かと言われると、やっぱり……。
黒崎:いや、ある意味そうなんじゃないのかなあ、っていう気がしています。完全にゾンビになって〈キミ〉に噛みつくようなことはしなかったわけだから、それはそれで幸せだと思いますし。そういう違和感満載で毒々しい歌詞をしっかり書けたのはすごくうれしかったし、すごくお気に入りの1曲ですね。
ーー先日ZAQさんもおっしゃってましたけど、アレンジもカッコいいですしね。イントロの音を汚しまくったアコギのストロークや、ミディアムテンポのヘヴィロックに乗っかるピーキーなシンセが耳を引きますし。
黒崎:ホントにこの曲とはいい出会いができたな、と思ってます。私の好きなバンドにIcon For Hireっていう人たちがいるんですけど、デジタルサウンドとバンドサウンドの融合の仕方がすごく面白くて。そういう曲がほしいな、ということでコンペを開かせてもらったんですけど、普段の黒崎真音のイメージがあるからか、ゴリゴリのメタルを作ってきた方がとても多かったんです。
ーー実際の「A.I.D」は確かにメタルに軸足は置いているけど、もうちょっとポップだし、けっこうストレンジですよね。
黒崎:そのコンペで集まった曲の中でも、最終的に「A.I.D」になった頓宮(秀人)さんのデモだけが、そういうノリになっていて。それを聴いてすぐ歌詞を書き始められたくらいイメージにピッタリだったし、想像力を刺激してくれる曲で。いい感じに私を狂わせてくれるいい曲だな、と思ってます(笑)。
ーー先ほど「個人的なアルバムになった」とおっしゃってましたけど、コンペを開くときに参照すべきバンドを指定したり、本当に黒崎さんの趣味嗜好が前景化された作品なんですね。
黒崎:はい。アルバムジャケットの私の写真のとおり、今回は「多面体」のほかにもう1つ、「ヌーディ」というコンセプトがあったので。自分の思っていることや経験したこと、そういう裸の部分をファンの人たちや、これから黒崎真音と出会ってくれるかもしれない人たちに伝えたかったんです。だからこそ「私、いつか謎のウイルスに感染してゾンビになっちゃうんじゃないかなあ」っていう、9年間ひた隠しにしてきた不安もバーンッと発表してみました(笑)。
ーーそうやって黒崎真音の素を丸出しにしたら、ティピカルなアニソンやJ-POPではないオリジナルな作品ができあがった、と。
黒崎:そもそも私、周りのことがよくわかってないんですよ。だから「ゾンビがー」とか真剣に言い出しちゃうわけですし(笑)。そういう変な人間だから共感されないのは当たり前っていう自覚があるから、自分らしくしようとすると、自ずと誰ともカブらなくなっちゃうんです。たとえば声優さんやほかのアニソンシンガーの方って、基本的にみなさん、明るくて元気でいらっしゃるじゃないですか。
ーー「でも、私は暗いぞ」と(笑)。
黒崎:そうなんですよ! 真剣にがんばって音楽活動に取り組んでいるところはみなさんと同じだと思うんですけど「ああいうふうにはできないなー」って。でも今は「よかったー、私、闇が深くて」とも思ってますけどね。音楽だとその闇を前面に押し出してもOKになるじゃないですか。
ーー確かに普通に会話している場面で暗いことばかり話されると聴き手はイヤな気持ちになっちゃうけど、「暗いからカッコいい曲」っていうものはありますもんね。
黒崎:と言いつつ、うっかりネガティブツイートをしちゃったりもするんですけど……。
ーーそのお気持ちは音楽の中だけで発散させてください(笑)。
黒崎:さすがにそこまで病んだことはつぶやかないんですけど、素直な気持ちを書いたつもりなのに、あとで読み返してみたら、なんか意味深で「もしかしたら、これ、誰かに怒られるんじゃないかな?」っていう発言をSNSでしちゃってたりするんですよ。でも、これからは気をつけます。ネガティブツイートはしない! 大人なんだから!
ーー令和元年の目標が決まりました(笑)。で、「A.I.D」以降、「décadence -デカダンス-」のカップリングである「Renka.」、新曲「Black bird」とバラードが続きますけど「Black bird」にはビックリしました。
黒崎:ピアノ1本だけをバックにバラードを歌うのは、いつかやってみたかったことだったんです。
ーーでも、この曲の作編曲は宮崎京一さん。宮崎さんってギタリストですよね?
黒崎:あっ、ホントだ! どんな曲でも書ける方だから、ついお願いしちゃいました(笑)。「ピアノの方と一緒にレコーディングブースに入って一発録りで歌いたいなあ」っていう願望がまず先にあって、そのあとこの歌詞のもとになるプロットを書いて、京一さんに「ピアノのバラードをお願いします」ってお渡ししたら、本当にただただ沈んでいく「まさに歌いたかったのはこういう曲です!」っていう曲が上がってきました。
ーー実はこの曲こそライブで観てみたいんですよ。「Beginning☆Journey」や「peko peko peach♡」でフロアをアゲにアゲまくったあと、生ピアノ1本で歌われたら絶対グッとくると思うから。
黒崎:ピンスポットで私とピアノの方だけ照らした状態でやるのか、いっそ真っ暗な中で歌うのか。確かにいろんな情景が浮かぶし、想像力をかき立ててくれる曲なんですよね。
ーーただライブはもちろん、レコーディングも一発録りとなると緊張したんじゃないかな、という気もします。
黒崎:いや、この曲が一番緊張せずに歌えました。「peko peko peach♡」なんかは声色をしっかり作って歌わなきゃいけないから逆に大変だったし……。
ーー途中で〈「好きだよ」〉なんてセリフも入りますしね。
黒崎:だから初めて聴く方は「こんな隠し球まであるの!?」ってビックリすると思うんですけど、「Black bird」はまさにヌーディというか。好きなように歌っていいよ、ってディレクションをいただいたので、本当に自由に歌えたんです。結局、パートごとにバラバラに録らずに、ライブみたいに1曲通してレコーディングできちゃいましたし、テイクもそんなに重ねてないんじゃないかな? キーやテンポ感が私にハマったっていうのもあるとは思うんですけど。