モーニング娘。楽曲で“人生”と“青春”はどのように歌われてきたか? 67thシングル発売を機に検証
〈人生〉を含んだ歌詞
まずは〈人生〉という単語がつんく♂詞ではどのように使われているか見ていく。文脈によっていくつかのパターン別に分けることができる。
人生とは○○
言い切りの形で書かれる、つんく♂が考える〈人生〉の意味合い。ハロプロ楽曲の歌詞における〈人生〉が含まれるフレーズの代表格といえば、「I WISH」[2000]の〈人生ってすばらしい ほら誰かと 出会ったり恋をしてみたり〉ではないだろうか。ハロプロの歴史が始まって4年目の2000年で、すでにこれ以上ない最強のフレーズが生まれてしまった感がある。ちなみに2番では〈人生ってすばらしい ほらいつもと 同じ道だってなんか見つけよう!〉と続き、こちらも感動的だ。
また、つんく♂の歌詞世界において〈人生〉とは、〈真剣100%でとことん〉やり、〈愛すべき人にささげる〉ものであり、〈いざとなればなんとかする〉ものであり、〈答えは一つじゃ〉なく、〈いろいろある〉もの、そして〈誰も彼もが人生の初心者〉なのだ、という認識のようだ。
・〈とことんやんよ この人生 真剣100% 行くしかねぇ 燃えようぜ〉(「地球が泣いている」[2012|アルバム曲])
・〈全部運命次第なんだと言うけど この人生は愛すべき人にささげよう〉(「君の代わりは居やしない」[2014])
・〈涙こぼれる 今日が最後よ たった一度恋に破れただけ 笑顔になれる 私ならば いざとなればなんとかするも人生〉(「悲しき恋のメロディー」[2012|c/w曲])
・〈答えは一つじゃない 人生は 結果が全てじゃないが 始めなきゃ始まんない〉(「HEY! 未来」[2003|DVDシングル])
・〈食べすぎちゃったあの日もな 見逃しちゃった映画もな 人生そりゃま いろいろある わかってるけどな〉(「女心となんとやら」[2010|アルバム曲])
・〈誰も彼もが 人生の 初心者だから〉(「ラヴ&ピィ~ス! HEROがやって来たっ。」[2005|c/w曲])
苦境の場面
〈人生〉の良い部分ばかりを讃えているわけではなく、苦境に陥ったりネガティブだったりする場面の描写もいくつか見られる。
・〈疑って許して 女と男の浪費 戻せない時間を後悔しちゃう 人生〉〈帰るか抱かれるか 女と男の二択 損得なんかはきっとどうでもいいのが 人生〉(「女と男のララバイゲーム」[2010])
・〈甘えたいよ 泣きつきたい 誰だって 誰だって 不安な人生/ごめんなさいと言えなくって ほら ずるずると転がれば最悪〉(「スカッとMy Heart」[2015])
・〈明日は雨かな それとも晴れかな ああ まるで人生〉(「すべては愛の力」[2009|c/w曲])
・〈みんなに見られたい みんなに見られたい/輝けこの人生 輝けこの人生〉(「I'm Lucky girl」[2010|アルバム曲])
・〈AH 切ない人生〉(「笑って! YOU」[2012|アルバム曲|歌唱:譜久村聖、生田衣梨奈、鞘師里保、鈴木香音、飯窪春菜、石田亜佑美、佐藤優樹、工藤遥])
「恋ING」[2003|c/w曲]の場合は、1番では〈片思いも出来なくて 人生つまんないって時期もあった〉だが、2番では〈いつまでも二人でならば 人生楽しんで行けそうだね〉と変化している。
また、近年のつんく♂作詞の傾向といえそうなのが、ネガティブなトーンをそのまま歌詞に出すという表現法だ。2018年発表の以下の2曲は特に顕著だし、似たシチュエーションを描いているように見える。
・〈好きなようにやってみればと言ったくせに 好きなようにやり出したらあれこれ言う 大人だってきっと初めての人生でしょ? 根拠も何もあったもんじゃない〉(「花が咲く 太陽浴びて」[2018|配信シングル])
・〈好きなようにさせたのなら あとでとやかく言うんじゃない 人生全て自分の責任 過去になんて縛られないで〉(「A gonna」[2018])
私の人生
つんく♂詞で目立つ傾向として、〈人生〉の前に接頭語として〈私の〉を付けて〈私の人生〉としていることが多い。もちろん人生自体は自分だけのものなのは当然だが、実際には他人のための人生になってしまっている場合も多々あるかもしれず、そういった人たちへのメッセージとして〈私の〉と強調している、のかもしれない。
・〈LOVE 一生孤独な少女のファッション LOVE 友情忘れたワンルームマンション LOVE パッション感じたあなたの表情 TOKYO TOKYOそれでも 先週終わった恋愛だって 来週遭遇運命だって この未来は絶対私の人生 楽しく生きてく運命変えてやる〉(「NIGHT OF TOKYO CITY」[1999|アルバム曲])
この「NIGHT OF TOKYO CITY」の該当箇所はラップ歌唱で切迫感を伴って歌われている。また同曲は、〈人生〉が歌詞に入ったモーニング娘。楽曲としては一番最初のものとなる。
・〈ガキ扱い No Thank You 私の人生 誰かがどして邪魔をするのよ〉(「この地球の平和を本気で願ってるんだよ!」[2011])
・〈通ってるスクールでいっぱい友達作っちゃって 健気に生きようじゃないか 私のこの人生〉(「ブレインストーミング」[2013])
・〈終わりなきMy Vision それでも全部 私の人生なんだよ 誰に何を言われようが 大好きな人生なんだな〉(「The Vision」[2016])
・〈ヤダヤダと言ってれば世の中が変わるなら 一晩叫ぶわ でも 自分だけが楽をしたって 私の人生 本当に楽しめないんだよ Ah 本気で挑めば勝てるのよ 本気で挑めばいいんでしょ〉(「セクシーキャットの演説」[2016])
以下の曲では〈私の〉という言葉は使ってないが、意味合い的には近いものだろう。
・〈この大地が見てる 星が見てる 我が道を行くだけ いつも通り 誰の為の人生? 何の為の人生? 信念だけは貫き通せ!〉〈ああ未来が見える 君も見える 我が地図を描いて 先へ進もう 誰の為の人生? 何の為の人生? 信念だけは貫き通せ!〉(「信念だけは貫き通せ!」[2012|c/w曲|歌唱:道重さゆみ、生田衣梨奈、鞘師里保、鈴木香音、飯窪春菜])
人生の長さ
人生の長さについて言及した歌詞がいくつかある。
・〈愛する星に生まれて 愛する人と出会って 1世紀満たぬ人生(みち)だから〉〈人間皆 好きになれ 人生は一回 笑う門に福来る life is one time〉〈積極的に生きるんだ 人生は一回 笑う人に人集う life is one time〉(「みかん」[2007])
・〈笑顔で生きていこう 健康であろうよ 100年やそこらの偉大な人生〉(「雨の降らない星では愛せないだろう?」[2009|アルバム曲])
人生は100年足らず、人生は一回。そして人生は一歩一歩踏みしめていくものだとも言っている。
・〈どんな未来が訪れても それがかなり普通でも 一歩一歩でしか進めない人生だから 立ち止まりたくない〉(「Do it! Now」[2002])
・〈だからあわてず行こう青年 そうさ人生つまりStep By Step〉(「Mr.Moonlight ~愛のビッグバンド~」[2001])
その他
上記カテゴリからはやや外れるものがいくつかあった。〈人生〉そのものについて語るというよりも、他のテーマを語る際に行きがかり上使ったと思しき用例といえるだろうか。
・〈孤独に負けそうな時 ここに戻ればいい 田舎で育んだ人生 誇りに思うなら〉(「友情 ~心のブスにはならねぇ!~」[2004|歌唱:モーニング娘。おとめ組])
・〈ハチャメチャな人生じゃないよ 私なり考えて 行動してるよ〉〈お小遣いだけじゃ足りないし 人生やっぱお金かかる〉(「彼と一緒にお店がしたい!」[2011|c/w曲])
・〈かっこいい生き方は出来ないが 今をどんな風に生きるか 迷うのも私流/真夜中コンビニに行くような 軽い恰好で人生を歩ける程 自信がほしい〉(「Rockの定義」[2013|c/w曲|歌唱:田中れいな])
・〈「藤本美貴」人気の公開番組へ 人生で初の参加 セットってすごい遠近法 ゲスト顔ちっちゃ~い「お~い、これ貼っといて。なに?髪切った?」〉(「女子かしまし物語3」[2006|アルバム曲])
以上で29曲。それでは新曲の「人生Blues」ではどういう歌詞かというと……その前に〈青春〉について見ていこう。