ボカロ曲の最新トレンドは孤独な歌詞とローテンポな曲調? 「ヲズワルド」「乙女解剖」などを分析
ボカロシーンにおける楽曲のトレンドは、時代につれて変遷している。初音ミクが誕生した2007年当初のシーンを席捲していたのは、アップテンポに、ミクを対象としたリリックを乗せた楽曲と、一枚絵のミュージックビデオ。しかし昨今で大半を占めるのは、ローテンポに、ミクではない生身の人間を対象にしたリリックを乗せた楽曲と、クオリティの高いミュージックビデオだ。今回は、今年に入り誕生したボカロ曲のなかでも、歌い手界隈に新たなブームを巻き起こしている3曲に着目することで、最新のシーンのトレンドを分析する。
歌詞に共通するのは“孤独”な心情
煮ル果実「ヲズワルド」
「アンドリューがいったから」(2018年2月10日公開)でボカロPデビューした煮ル果実が、ちょうど一年後に投稿した「ヲズワルド」は、天月-あまつき-、Sou、宮下遊などの歌い手の関心を惹きつけた。YouTubeにおける彼の公開動画のなかでも、リスナーによる解釈を含めたコメントが最多になっている同曲。飲み込むのが難解な言葉に加え、〈新成人に合図を〉という一言で曲が不意に終わる点が、この曲のミステリアスさを引き立てている。歌詞の中で最も注目したいのは、〈信仰の様な暮らしから抜け出したい〉、〈『信仰に寄生しなきゃ生きれないの?』〉などから推測できるように、主人公は、孤独かつ他人本位でしか生きられない人物であること。もともとあった個性をも削りながら過ごす過程を描いており、ここにこそ、生きづらい社会を生きる、リスナーの共感ポイントがある。
syudou「ビターチョコデコレーション」
代表曲に「邪魔」、「馬鹿」を持ち、毒舌なリリックを吐き出すボカロP・syudouが、2019年1月4日に投稿した「ビターチョコデコレーション」。あほの坂田やkradness、宮下遊などが“歌ってみた”動画を投稿しており、YouTubeにおけるsyudouの公開動画のなかでも再生回数が最多記録となる269万回超えだ(5月21日現在)。〈やっぱいいや〉の一言で曲が不意に終わる点が謎を呼ぶほか、〈集団参加の終身刑〉、〈宗教的社会の集団リンチ〉といった歌詞からも分かるように、消極的で無個性な、いわゆるダウナー系な人物を主人公としているのは、上述した煮ル果実の「ヲズワルド」と一致する。