中国ではアイドル元年から戦国時代へ突入 人気配信番組が続々登場する背景に迫る

 そして、今年1月21日『偶像练习生(Idol Producer)』のシーズン2である『青春有你』の放送がスタートした。シーズン1の盛り上がりに続けとばかり、あっという間に「愛奇芸(アイチーイー)」内で視聴率トップに駆け上がった。番組の流れとしてはシーズン1とほぼ変わらずで、出演者であるメインの審査員兼指導者のメンバーも同じだったし、バトル形式で候補生は合宿生活を送りながら番組の収録が行われ、レベルに合わせて配布されるトレーナーの色も変わらなかった。

『青春有你』公開公演(写真提供=愛奇芸)

 しかし、大きく異なっていることがひとつあった。“国家一級歌手”“国家一級ダンサー”という肩書きの40代から70代までの4名が、新たに審査員として登場したのだ。“国家一級”とは簡単にいうと“国が認めた一流の”という意味だ。その“国から認められた”舞台人の大先輩である4名が、控え室の机を囲み、候補生たちの舞台上の成果を映像で見て評価するのだ。「さすが2年レッスンを受けてきただけあるね。基礎ができているよ」「ポップスの中に中国的な要素をいれて、さらにラップとダンスでもってミックスさせる。多元的な表現で新しいね」などと、この権威ある先輩たちは、はるか昔の自分の姿と重ねたりして、感想を述べ合う。

4名の“国家一級”の先輩たち(写真提供=愛奇芸)

 それでは、なぜ、この指導者的存在が登場したのか? それは、アイドル番組がオンラインの枠を超えて中国の一大産業になっていることの表れだろう(と私は勝手に断言する)。NINE PERCENTには、中国中の若者が夢中になっているし、どんどんお茶の間に浸透して、親子でファンという人もいるくらいだ。たった1年で“アイドル”を超え、オピニオンリーダー的な存在になってしまったともいえる。それに応じて、番組の方でも、アイドルが青少年の模範になるということを頑張って示すようになった。“かっこいい”“背が高い”という見た目だけで投票をしがちなファンの評価だけではなく、この番組のスローガン同様「越努力 越优秀」(日本語で言うと「努力すれば優秀になれる」)というのを、若者にも伝えたいということなのだ。実際、先輩たちは、背は低いけれどダンスが上手い男子や、14年間バレエを続けてきたという、候補生の中でも年齢が上の男子に高評価をつけていた。「君の努力は無駄ではない」ことを、先輩たちは分かっているのだ。

 また、今年に入ってのもう一つの驚きは、『青春有你』と同じスタイルのアイドル番組が別の動画サイトでも制作され、同じ1月から放送されていたことだ。同じく100名の男子が共同生活を送り、ダンスや歌を披露して、のし上がっていくという番組。こちらは、『青春有你』よりもさらに「若者の精神、肉体を育てる」という意味合いが強いようだ。そして、両番組に共通している“共同生活”というのは、私たちが想像するような“シェアハウス”とは懸け離れた合宿生活だ。中国は昔から、大学生になると基本、全員が学内にある学生寮で共同生活を送る(高校からというケースもあるらしい)。一部屋4人、二段ベッドでの生活(寮によっては2人一部屋もある)が中国ではごくごく当たり前。番組でも同じ形式を取り入れているため、参加者の彼らにとっては、まるで学生生活の延長、または学生生活に戻ったような感じなのだ。しかも、先日4月6日、また別の動画サイトでもアイドル番組がスタートし、今年は“アイドル戦国時代”到来だ。実は、その4月6日は、『青春有你』の最終回、そして、NINE PERCENTのデビュー1周年という重要な日だったのだ。その日、新たなアイドル番組が始まるという、アイドルファンにとってはなんとも忙しい一日だった。

 驚き疲れるのはまだ早い。日本では考えられないが、これらの番組は、中国各地の“アイドル村”のような場所で収録、合宿生活が行われているのだ。『偶像练习生』『青春有你』は北京からバスで1時間ほどのところにある河北省の街で、もう一つの番組は無錫(むしゃく)という、上海から新幹線で2時間ほどのところにある街で行われている。参加者100名の若者の他に、番組に関わっている数多くのスタッフたちが敷地内で生活をしているようだ。敷地内にはコンビニもある。しかし、ファンはもちろん立入禁止だ。ファン(女飯)たちは、コンビニ近くの敷地ギリギリの場所で推しメンのアイドル候補生が買い物に来るのを寒い中待っていて、彼らが来るたびに声援を送る甲斐甲斐しい(たまにちょっと怖い)動画もあがっていた。

北京からバスで1時間のところにある“アイドル村”(写真=小山ひとみ)

 先ほども書いたが、4月6日に最終回を迎えた『青春有你』は、『偶像练习生』同様に生配信され、9名の男性アイドルグループがまたしても誕生した。グループ名は「UNINE(ユーナイン)」。実はそのUNINEが誕生した会場に、私も立ち会うことができた。ずっと応援していた練習生のデビューが決まり涙して喜ぶファン、9名に入れず泣き崩れる練習生の姿に涙するファンなど、私の周りではいろんな涙を流すファンで溢れていた。番組が終わったのは夜中の12時。北京までの送迎バスに乗り、バスからの真っ暗な光景を見ながら、数分前までの熱狂とアイドル誕生の瞬間はまるで夢だったのではないかという気持ちで北京のホテルまで戻った。

 私もすっかりアイドル候補生たちのひたむきな姿に感動し、番組、そして中国のアイドルに夢中になっていた。この思いを語り合う相手が欲しい。ファンの子たちって、この突然、しかも大量に登場した中国アイドルをどう思っているんだろう? 居てもたってもいられなくなった私は、上海に飛び、“追っかけ”女子の住む大学の寮に押しかけ、ちょうど、私と同じ、NINE PERCENTのメンバー・陳立農(チェン・リーノン、通称:ノンノン)を推している大学生に話を聞いた。

 次回は、韓国アイドルから中国アイドルの追っかけに転身した上海の大学生の話をお送りする。

■小山ひとみ
中国のミレニアル世代やユースカルチャーが得意分野のライター、フェスティバル/トーキョー中国プログラムキュレーター、中国語通訳・翻訳者。『STUDIO VOICE』Vol.413では中国のオンライン番組についてのコラム執筆、Vol.414では中国のファッションページで企画、コーディネート担当。『装苑』で中国のファッションデザイナー、ウェブマガジン『HEAPS』で中国ヒップホップやミレニアル世代の記事を執筆。2017年の「フェスティバル/トーキョー」では中国特集をキュレーション。中国のメディアに日本の情報も提供するなど、日本と中国の「いま」にフォーカスを当てて発信を続ける。

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