荻原梓のチャート一刀両断!

CD売上1位のラストアイドルとDL1位のあいみょん、対照的な両者が並ぶランキングの“ねじれ構造”

 しかしながら、面白いのは、現代アイドルならではの表現を見せたラストアイドルが”CDシングル”で1位を記録し、逆にノスタルジックなサウンドを携えた「ハルノヒ」が”ダウンロード数”で1位となったことである。

 「ハルノヒ」の舞台は北千住。東京の中でも下町風情の残る地域で、昔ながらの商店街が今もなお残る街だ。この曲に限らず彼女の作品は懐かしい雰囲気を感じさせる楽曲が多い。利用者に若い世代が多いはずのデジタルシングルのランキングを席巻している彼女の楽曲が、そうした性質を持っている点はなかなか興味深い。

 また、この曲は“未来”に対する漠然とした距離感と思いを歌っている。

〈僕らは何も見えない 未来を誓い合った〉
〈どんな未来が こちらを覗いているかな〉
〈どうか未来が こちらに手を振ってほしい〉

 この“どうか”という言葉から、主人公の繊細な機微が伝わる。ぼんやりと遠くにある“未来”に対して、みずから自発的に向かおうとはしていない。〈焦らないでいい〉と何度も歌っているように、生き急いでいる雰囲気がない。対する「大人サバイバー」はこうだ。

〈たとえ地図がなくても どこかへは辿り着けるだろう〉
〈前へ前へ歩けよ!〉
〈どんな時も夢見ろ!〉
〈迷わず まっすぐに進むんだ〉

 “未来”が見えないのは同じだが、自己啓発にも似た力強いフレーズの連続で能動的な姿勢を促している。目的地ははっきりしないものの、前へ突き進むパワーと、自分を信じる強さが表れている。前進することに対して、意気込みや熱意に溢れ、活気に満ちている。手法やサウンドも対照的な両者だが、“未来”に対してのスタンスも明確に分かれている。

 新指標としてのデジタルランキングを席巻するあいみょんの“郷愁感”と、低迷するCD市場に君臨するアイドルの“力強い”言葉。平成終盤のオリコンランキングから見えてきたのは、ある種の“ねじれ構造”であった。

■荻原 梓
88年生まれ。都内でCDを売りながら『クイック・ジャパン』などに記事を寄稿。
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Twitter(@az_ogi)

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