声優音楽シーンで目立つ“自作自演”の流れ 沼倉愛美、鈴木みのり、早見沙織の作品を解説

鈴木みのり『見る前に飛べ!』

 『マクロスΔ 歌姫オーディション』でグランプリを勝ち取り、フレイア・ヴィオンとして声優デビューした鈴木みのり。同アニメに登場するユニット・ワルキューレのボーカリストとしても活動し、2018年1月にはシングル『FEELING AROUND』でソロデビューを果たした。

鈴木みのり – ヘンなことがしたい!(Short Ver.)_1st AL「見る前に飛べ!」より

 2018年12月に発売された『見る前に飛べ!』には、アルバムタイトル候補がもう1つあがっていた。「ヘンなことがしたい!」である。このタイトルは、今作の2曲目のタイトルだ。実はこの曲、彼女が口癖のように「変わったことがしたいんです!」と言い続けてきたことがきっかけで制作されたのだという。

 同曲の編曲を務めたのは、モーニング娘。などのハロー!プロジェクトを中心に多彩な楽曲を手がけてきたDANCE☆MAN。イントロのグルーヴィなサウンドから歌声が入った瞬間、メロディーラインとリズムが一気にずれていくという、これまでの声優音楽にはなかった曲調だ。

 「ヘンなことがしたい!」のほか、本作では、ROUND TABLEの北川勝利、元ラヴ・タンバリンズの宮川弾、堂島孝平、南佳孝といったニューミュージック~渋谷系へと連なる作曲陣を起用した点も興味深い。ソウルであったり、ネオアコな感触もあり、多彩さに満ちている点こそ本作の魅力だ。

早見沙織『JUNCTION』

 鈴木みのりと同じ2018年12月末には、早見沙織の『JUNCTION』が発売された。デビュー時から楽曲制作にこだわっていた彼女は、今作では全14曲中10曲で作詞・作曲を担当。幼少期よりジャズボーカルを学んでいたという歌声、尽くことのない音楽への興味関心など、声優界でも突出した音楽的才覚の持ち主なのは間違いない。

 これまでも度々作詞作曲を手がけてきた彼女だが、本作ほど彼女の趣向が全面に出ているものはない。例えば、「Let me hear」(作曲は川崎里実)はゴスペル系のコーラス、きらびやかなキーボード、ナチュラルトーンのバッキングコードなどで、ディープソウルを取り入れた。そのほか、「メトロナイト」ではAOR~シティポップサウンド、「夏目と寂寥」ではジャズ~ヨットロックなサウンドメイクが施されている。早見沙織が作曲を務め、倉内達矢が編曲を務めたこの2曲は、声優としての彼女を知る人も驚かせたことだろう。

 また、竹内まりやが提供した「夢の果てまで」では派手な管弦楽のイントロは昭和歌謡らしさに溢れていて、J-POPらしく響くのが面白い。さらに今作の後半では、バラード、シューゲイザー、ギターポップなども取り入れられている。この多彩さからは、ジャンルに縛られることなく、自身の好きな音楽にチャンレンジしようとする姿勢がうかがえる。また、「夢の果てまで」は、早見沙織がヒロインを演じている劇場版『はいからさんが通る』の主題歌だ。声優であり、音楽家でもある彼女。2つのペルソナを今作に詰め込んでみせ、紛れもなく「自分自身らしさ」を表現した1作であろう。

 作曲・作詞・編曲家へのオファーだけでなく、自作自演の色を強め始めた声優シーンの音楽制作。機械的なプロダクト作業から一歩踏みこみ、自身の嗜好性や個性をよりヴィヴィッドにファンへ届ける一線を画したフィールドへと変化しつつあるのではないだろうか。「自分をいかに捉え、華やかに音楽を鳴らすのか?」という一歩踏み込んだ視点が、ファンの心の鍵穴にハマリこむキーファクトになっていくのだ。

■草野虹
福島、いわき、ロックの育ち。『Belong Media』『MEETIA』や音楽ブログなど、様々な音楽サイトに書き手/投稿者として参加、現在はインディーミュージックサイトのindiegrabにインタビュアーとして参画中。
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