欅坂46「黒い羊」は欅歌謡の金字塔に ナスカとの強力タッグが生み出した“自己完結”の歌

少数派に訴える“悪目立ち”の歌

 〈つまらない大人は置いて行け〉〈不協和音で/既成概念を壊せ!〉〈想像のガラスを割れ!〉など、命令形の多かった今までのシングルとは異なり、今作では〈僕だけがいなくなればいいんだ〉と自分だけで完結してしまう表現が目立つ。こうした“自己完結”の歌は一見訴求力が弱いと思われがちだが、そうした曲の方がむしろ強い共感を獲得する場合もある。たとえば、「Lemon」は米津玄師本人も言っている通り非常に“個人的な”曲で、「“あなたが死んで悲しいです”とずっと言ってるだけの曲」だ(参考:米津玄師「Lemon」インタビュー|人間の死を見つめて - 音楽ナタリー 特集・インタビュー)。けれども、それがあれだけのヒットになるのは、人々があの曲を自身の喪失の体験と照らし合わせて聴くからに他ならない。

 「黒い羊」は、要約すれば「人間はみなあやふやな存在であり、はっきりと白だ黒だと割り切れないものなのに、世間にはみな同じ色(白い羊)であれとする圧力がある。ならば自分は“黒い羊”となって悪目立ちしていよう」という歌である。集団における少数派の気持ちを汲み取るテーマだが、グループに馴染めず悩んだ経験を持つ者は決して少なくないだろう。刺さる人には刺さる、個々の心の深い部分で共鳴する路線を表題曲に選んだのは、多くの人に好かれようとする明るいポップソングが是とされるJ-POPの世界において、その選択それ自体が“黒い羊”的でもある。

■荻原 梓
88年生まれ。都内でCDを売りながら『クイック・ジャパン』などに記事を寄稿。
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Twitter(@az_ogi)

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