「ハーフタイムショー」はなぜ物議を醸した? Maroon 5出演背景からパフォーマンスまで解説

 『スーパーボウル』の「ハーフタイムショー」はミュージシャンにとって最高の栄誉だ。少なくとも、1993年にマイケル・ジャクソンがそこに立って以来、そうありつづけたはずだ。しかし、2019年、景色は激変した。報道されただけでも、リアーナとP!nkが出演オファーを拒否(参照)。結局Maroon 5が担当することとなったが、彼らが了承するまで『National Football League』(以下、NFL)は20人に拒否されたという噂も流れている。さらにはゲストパフォーマーの招致も難航を極めた。ナンバーワンヒット「Girls Like You」で組んだカーディ・Bで決まりと思いきや、彼女もボイコットを表明。一体、なにが起こったのか?

Maroon 5『Red Pill Blues』

 出演拒否について、カーディはこう語っている。

「大金を犠牲にした。でも、私たちのために仕事を犠牲にした男性がいる。私達は彼をサポートしなくちゃいけない」

 ここで示される男性とは、元サンフランシスコ・49ersのクォーターバック、コリン・キャパニック選手だ。端的に説明すると、2016年、警察の人種差別に抗議するため国歌斉唱中に膝をついた彼は、その後どのNFL加盟チームからもオファーを受けられなかった。現在は抗議を理由に排除したとしてNFLを起訴している。また、膝をつく抗議はほかの選手にも広まったものの、NFLが禁止令を敷いた。2018年にはNikeが彼の勇気を讃える広告を発表。その一方、ドナルド・トランプ大統領は膝つき運動を激しく糾弾。要するに、現在のNFLは、世論を二分するビッグ・イシューを抱えているわけだ。こうして、「ハーフタイムショー」を拒否するスターが続出し、同時に出演を決めた者が批判される状態が形成されたのである。

 今年の場合、多彩なブラックミュージックを生んだアトランタ開催にも関わらず白人のポップバンドが選ばれたことも不評を買った。出演辞退を求めるために集まった署名は10万人以上にのぼった。Maroon 5とNFLは恒例だった記者会見をキャンセルし、ゲストに決まったトラヴィス・スコットと共に社会正義団体への寄附を発表することになる。

 始まる前からネガティブなイメージがついたMaroon 5の「ハーフタイムショー」だが、ステージ自体は目立った欠点なく終わったのではないだろうか。キャリア初期から中期に集中したヒット曲披露、前年にクリエイターが逝去したアニメ『スポンジ・ボブ』のスペシャル映像、今最も熱いラッパーのトラヴィス、現地のゴスペルクワイヤによる盛り上げ、アトランタの英雄ビッグ・ボーイ、そして、アメリカで「結婚式で一度は聴いたことがある」と言われるラブソング「Sugar」、「Moves Like Jagger」によるフィナーレ……アダム・レヴィーン(Vo/Gt)の乳首露出を除けば、バンドが極端に目立つ仕掛けは施されておらず、あくまでも優等生なパフォーマンス。一方で派手さを見せつけたゲストとのケミストリーは抜群とは言えないものの、ベストでもワーストでもない仕上がりだ。だからこそこう書かれた。

「無味無臭なハーフタイムショーを提供したMaroon 5、歴代ワーストを回避」 - USA Today

「まるで忘れ去られる為に設計されたショー」- The Atlantic

「ベーシック。空虚で退屈」 - AP

 「政治的騒動無しにパフォーマンスとしてつまらない」という声もあるが、バッシングが大きかったからこそ無難な演出に偏った推測もあがっている。ともあれ共通している見解は、Maroon 5の「ハーフタイムショー」にはアンフォゲッタブルな──いわば歴史に残るような瞬間が無かったことだ。正直、『MTV Video Music Awards』のヴァンガードならレビューがネガティブに染まることはない水準だと思うが、これはアメリカ最大の舞台、『スーパーボウル』の「ハーフタイムショー」だ。「無難」では及第点にすら至らない。比較対象になるのは、ライオンに乗ってサメと踊るケイティ・ペリー、宙吊りになるレディー・ガガ、はたまた黄金の存在感でColdplayを食ってしまったブルーノ・マーズ&ビヨンセといった面々なのだから……ただし、こうしたきらびやかな比較対象は、もう不変ではないかもしれない。

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