『ソラノネ』インタビュー

ZAQの変幻自在な楽曲制作術 TVアニメ『荒野のコトブキ飛行隊』OP&EDを語る

2019年は『コトブキ』に始まって『コトブキ』に終わるはず

——一方アレンジは?

ZAQ:けっこう大変でした。デモには「こういうラッパを入れたいです」っていうブラスのフレーズを入れておいて、それをサクソフォニストの方にブラッシュアップしていただくことにしていたんですけど、そこでも「ブラスではこの音は出ません」という……。

——ギタリストさんと同じ言葉を……。

ZAQ:いただいて(笑)。「じゃあこういうフレーズにしましょう」って感じで何度もブラスのスコアを書き直していただいたりしているので、アレンジには時間がかかったんですけど、じゃあキツいだけだったかっていったら、そうでもなくて。まあブラス隊がホントに上手いんですよ。私もトランペットを吹いていたから吹奏楽的な上手さは知っているつもりなんですけど、ホントに「これから戦場に向かう飛行機に乗る女の子たちへのファンファーレ」っていう感じのプレイをしていただいて。それを聴いてまたアレンジのアイデアが膨らんだというか。「ソロはサックスの方にお任せしちゃおう」ってことになって、ブラスのフレーズを書き直してもらった方に思う存分吹いていただいたりしてますし。

——そういうリッチさも感じてほしいですよね。それこそZAQさんはDAWもできるから全部打ち込みでもできるんだけど、ドラム、ベース、ギター、キーボード、ブラスのすべてが生っていう豪華さというか……言ってしまえば、このお金がかかってる音像を味わってほしいですよね(笑)。

ZAQ:そうなんですっ! しかもブラスは2本、ギターも2本使ってますから! 私がエディットしたのは風の音のSEくらいのもんですから。こんなにお金を掛けたレコーディングができるなんて……。『コトブキ』、ありがとう!

——(笑)。

ZAQ:でもホントにおっしゃるとおり、贅沢にミュージシャンを使わせていただいた自覚はあるし、それに見合うサウンドができあがった自信もありますから。

——しかもサックスソロがあったり、2コーラス目以降も聴きどころ満載だから、テレビサイズではなく、CDや配信音源でフル尺でこそ聴くべき楽曲になっている。

ZAQ:アウトロも聴いてもらいたいですから。ブラスのブロウはカッコいいし、でもリズム的にはミュージシャン陣をイジメまくってたりしていて(笑)。あれもTVサイズでは楽しめないポイントだと思います。


——で、今回は『荒野のコトブキ飛行隊』のOPとEDの特集企画なので、ZAQさんが作詞・作曲・編曲をして、出演声優陣が歌うエンディングテーマ「翼を持つ者たち」についても聞かせてください。

ZAQ:はい。

——まずイントロからして思いっきりZAQ節ですよね。あのアコースティックギターのアルペジオをチョップしまくる感じとか。

ZAQ:ヒップホップラバーとしてはチョップ&スクリューは絶対にやらないといけないことですから(笑)。

——で、Aメロはそのチョップされたアルペジオがループするアレンジになっているし、6人の声優さんが細かくマイクリレーしている。だから「あっ、エンディングはオーガニックな歌モノヒップホップテイストなのかな?」と思ったら……。

ZAQ:ドラムが入った瞬間、一気に明るくなるという(笑)。

——そしてサビはシンガロングしたくなる、J-POP的なキャッチーさを持っている。このマッシュアップ感にもZAQ印を見ました。

ZAQ:それこそ「ヒップホップラバーならチョップ&スクリュー」じゃないんですけど、アレンジについては自分の好みであったり、今ハマってるミュージシャンであったりを参考にするものの、何人かが歌うキャラクターソングの場合、メロディはとにかくボーカルが複数いることを念頭に置いて作るようにしていて。だからAメロ、Bメロは細かくボーカルがクロスするようになっている。絶対に1人で何小節も歌わせないようにしているんです。そういうこともあってAメロはアコースティックギターとシェイカーだけが鳴っているシンプルなバックトラックに、譜割の細かいメロディを乗せることでリズムを作っていきたいなっていう感じで作り始めたんですよね。Aメロ、Bメロはタタタタタタタってテンポよく進んでいって、サビはタン・タン・タン。1つの音に1つの文字や言葉を置いていく感じ。ホントに聴いてるみんなも歌える感じというか、ちゃんと頭に残る感じにしたかったんですよね。

——お話を伺っているとキャラクターソングのほうがZAQ名義の楽曲よりもロジカルに作られている印象を受けるんですけど、ZAQ名義の楽曲とキャラソンってどっちがスムーズに作れるものなんですか?

ZAQ:1人のキャラが歌うものならZAQ名義のものとそんなに変わらないんですけど、今回みたいに複数人が歌うキャラソンはメチャムズいですね。一人ひとりにスポットが当たるようにしなきゃいけないし、でも普通のポップミュージックなんて4分くらいしか尺がないじゃないですか(笑)。

——敵はポップミュージックの構造でしたか(笑)。

ZAQ:そのポップミュージックという額縁の中をいかに泳いでみせるかが作曲家・編曲家の腕の見せ所だとは思うんですけど、でも「AメロとA’メロは3行しかないし、Bメロも6行しかない!」って感じにはなっちゃいますね(笑)。

——と言いつつも、キャラクターたちにスムーズな言葉とメロディを与えている。おっしゃるとおり、ポップミュージックの額縁を見事に泳ぐ職業作家的、プロデューサー的スタンスで楽曲提供なさってる印象を受けました。

ZAQ:確かに『コトブキ』の楽曲に関しては本当にプロデューサー的なスタンスで取り組んでいるかもしれないですね。一人ひとりのキャラクターソングの作詞・作曲も担当させてもらえるので。

——そのキャラクター陣というか、声優陣……鈴代紗弓さん、幸村恵理さん、仲谷明香さん、瀬戸麻沙美さん、山村響さん、富田美憂さんのボーカルが乗った「翼を持つ者たち」を聴いた印象っていかがでした?

ZAQ:想像以上の完成度でしたね。6人の声が重なると音に厚みが出ますし、それでいてちゃんとそれぞれの声の個性が出ているし、それぞれのパートがいい感じに絡み合っていますし。オープニング曲はクセが強いから「ちょっと……」っていう人もいるかもしれないけど、この曲はみんなが聴ける(笑)。「このエンディング、マジないわー」っていう人はいないと思うから、毎週平和にアニメを終えることができるなっていう気がしています。

——あっ、話が行ったり来たりになっちゃうんですけど、「ソラノネ」はご自身の中でもけっこう挑戦的な曲っていう位置付けですか?

ZAQ:アーティスト・ZAQのときは常にチャレンジですから(笑)。常になんらかの仕掛けは用意しているし、そのギミックをあざといっていう人もいる。「もうちょっと自然に作ってくれればいいのに」「なんかこだわりやがって」っていう方もきっといると思うんですけど、そういう声の中、挑戦し続けるのがアーティスト・ZAQの振る舞いだと思うんですよ。

——型破りの話じゃないけど、ティピカルなロック、ティピカルなJ-POPみたいなものからは距離を置きたい?

ZAQ:そうですね。ストレートなロックナンバーのようで実はめっちゃ分数コードが多いとか、そういうことをやりたがる自分がいますね。ロックというと愚直なまでにストレートっていうイメージがある方も多いと思うんですけど、なんかひねくりたくなっちゃう(笑)。私が素直に書くのはヒップホップだけですね。

——それはなぜ?

ZAQ:ギャングスタラップはリアルであるべきだと思っているので。

——ブロンクスには……。

ZAQ:敬意を払わざるを得ない!(笑)。

——ちなみに2019年ってどんな1年になると思います?

ZAQ:いや、『コトブキ』に始まって、『コトブキ』に終わると思います(笑)。キャラクターや声優さんたちに憑依したんじゃないか?  ってレベルで彼女たちの歌や言葉を書いていきたいし、そのためにガッツリ脚本も読み込んでいますから。この作品には、これから1年そういう愛情を注ぎ込める自信があるから2019年はすごく楽しくなるだろうな、って思ってます。


(取材・文=成松哲/写真=はぎひさこ)

■商品情報
『ソラノネ』/ZAQ
1月23日(水)発売
1.ソラノネ(TVアニメ『荒野のコトブキ飛行隊』オープニング主題歌)
2.カゼノワ(ゲーム『荒野のコトブキ飛行隊 大空のテイクオフガールズ!』主題歌)
3.ソラノネ(Off Vocal)
4.カゼノワ(Off Vocal)
¥1,200 (税抜価格)+税

TVアニメ『荒野のコトブキ飛行隊』エンディング主題歌
『翼を持つ者たち』/コトブキ飛行隊(キリエ(CV.鈴代紗弓)、エンマ(CV.幸村恵理)、ケイト(CV.仲谷明香)、レオナ(CV.瀬戸麻沙美)、ザラ(CV.山村 響)、チカ(CV.富田美憂)) 
2019年1月30日(水)発売
¥1,200 (税抜価格)+税

ZAQ公式サイト
『荒野のコトブキ飛行隊』公式サイト

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