折坂悠太、中村佳穂、KID FRESINO……“プレイヤー”たちのネットワークが新たな音楽を生む原動力に

 このような作品を前にすると、ロックを中心に根強いバンドという活動形態とは異なる、個性的なプレイヤーがコラボレーションしあうことで音楽のあり方を更新してゆく、そんなダイナミズムが見えてくる。バンドよりも、シンガーやビートメイカー、また楽器奏者といった“プレイヤー”たちのこうしたネットワークこそ、新しい音楽のかたちを開拓する原動力になっているのではないか。とはいえ、ソロアーティストがミュージシャンを集めて仕事をすることはありふれたことだ。なぜいまこうした図式をあえて持ち出すのかといえば、国内の音楽の中で様々なジャンルが互いに混じり合い、融合していく様を理解しやすくなるからだ。

 この視点に立てば、KID FRESINOの2018年作『ài qíng』もまた、『平成』や『AINOU』と同じ地平にあるものとして見えてくる。同作にはエレクトロニックなダンスミュージックからジャズ、R&Bまで、多様なジャンルのボキャブラリーが総動員されている。とりわけ変拍子やポリリズムを取り入れて話題を呼んだ「Coincidence」は、2017年以来活動をともにする、斎藤拓郎(Yasei Collective)や石若駿(CRCK/LCKS)をはじめとするバンドメンバーとの協働が生んだ稀有な一曲だ。KID FRESINOをハブとしたプレイヤーのネットワークが、ジャンルを超えた作品を生み出した例と言える。

KID FRESINO - Coincidence (Official Music Video)

 主にアメリカのメインストリームやK-POPを震源に、コーライティングなどポップスの分業制への関心が改めて高まる昨今。それに加え、プレイヤーたちのネットワークに注視することで、たとえば「ロックからヒップホップの覇権へ」といった単純な構図を超えた音楽地図を描けるのではないだろうか。

 2019年には、インターネット上に登場したまた新たなミュージシャンたちによって、まさにこうしたネットワークが再編される予感が感じられる。今後広い注目を集めるだろう若い世代のコラボレーションの例として、2019年の年始を飾った印象的なリリースを紹介したい。<Maltine Records>からリリースされたabelestのEP、『健康』だ。1曲目でコラボレーションする諭吉佳作/menは、崎山蒼志や長谷川白紙らと交流のある浜松の若手SSWで、このEPでも存在感を遺憾なく発揮している。すでに『未確認フェスティバル』でも評価を受けた才能に注目だ。

abelest + 諭吉佳作/men - 運動

■imdkm
ブロガー。1989年生まれ。山形の片隅で音楽について調べたり考えたりするのを趣味とする。
ブログ「ただの風邪。」

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