ヴィジュアル系シーンの“閉塞感”をどう打開する? ライター4名による2018年振り返り座談会
YOSHIKI feat. HYDE、X JAPANの無観客ライブ、2度目の『LUNATIC FEST.』……2018年も様々なトピックがあったヴィジュアル系シーン。ゴールデンボンバー以降新たに注目されるアーティストが少なく、“閉塞感”があると言われがちだが、実際はどうなのだろうか。今回リアルサウンドでは、音楽専門学校や事務所で新人発掘の経験を持つ冬将軍氏、8月に市川哲史氏との対談本『すべての道はV系へ通ず。』を上梓した藤谷千明氏、当サイトでヴィジュアル系を中心としたコラム、レポートを執筆しているオザキケイト氏、白乃神奈氏の4名のライターによる座談会を行なった。2018年の動きを振り返りつつ、近年のシーンの動向や注目の若手アーティストについてじっくりと語ってもらった。(編集部)
『LUNATIC FEST.』、『バグサミ』などの大型イベント&サウンドの“原点回帰”
ーー今年は『LUNATIC FEST.2018』(以下、ルナフェス)がありましたね。
藤谷千明(以下、藤谷):そもそも『ルナフェス』をヴィジュアル系のイベントに括ってしまうことが果たして正解なのかという疑問が出てきますが……。
オザキケイト(以下、オザキ):呼んだアーティストも含めて前回とは全く別物になった印象はありましたね。
藤谷:前回はRYUICHIがステージ上で“ロックの地層”と表現したように、LUNA SEAが影響を受けたアーティストとLUNA SEAに影響を受けたアーティストという縦の繋がりでしたけど、今回は初日も二日目もLUNA SEAとなんらかの縁があるアーティスト、という横の繋がりを感じるラインナップでした。
オザキ:その中で今年明徳さんが復帰したlynch.は念願の『ルナフェス』出演。「SLAVE」をカバーしてSLAVE(=LUNA SEAファン)たちの心を掴んだ結果、ツアーファイナルのTDCホールを早々に売り切ったのはいいニュースでしたね。
白乃神奈(以下、白乃):ああいう事件で復活して成功するバンドって珍しいですよね。
冬将軍: BUCK-TICKの今井寿復活くらいですかね。
藤谷:それは四半世紀以上前の話じゃないですか。オザキさんや白乃さんはまだ二足歩行してない頃ですよ。その時とは時代が違う上、一度は脱退したメンバーを戻すこと自体異例ですし、インディーズではなくメジャーのまま復帰できたのはバンドはもちろんですが、周囲の努力や熱意も相当のものでは。
ーーバンド主宰のイベントとしてはBugLugが主宰した『バグサミ』も今年開催されました。
藤谷:昨年1月に行われ、今年はツアーも開催されたDEZERTの『This Is The “FACT”』などもそうですけど、バンドが主体となった大きなイベントは増えている傾向にありますね。自分たちの世代だけではなく、上の世代のバンド、『バグサミ』でしたら、BAROQUEやA9といった上の世代とザアザアや甘い暴力といった下の世代も巻き込んでいたのが印象に残っています。ここ数年開催されているR指定の『メンヘラの集い』は、アーバンギャルドやミオヤマザキなど、ジャンルを問わず“メンヘラ”感のあるアーティストが集まっていたりと、バンドのカラーが見えるのも面白いですね。
白乃:『バグサミ』に関しては先輩後輩に関わらず、BugLugとと何かしら関係があるなど、しっかり呼ばれる理由があるバンドを呼んでいた印象ですね。それに、フェス自体もバンド同士のバチバチした感じではなく、“みんなでヴィジュアル系シーンを盛り上げていこうぜ!”という雰囲気を感じました。
オザキ:去年の話にはなりますけど、DEZERT主宰の『This Is The “FACT”』の空気感は『バグサミ』とは真逆のバチバチした感じだったので藤谷さんの言うようにバンドによってカラーの違いはあると思います。
ーー近年ヴィジュアル系シーンで話題の中心にいたDEZERTは、今年雰囲気が変わったと傍から見て思ったのですが。
オザキ:元々DEZERTというバンドは曲の良さと、キャッチーさを持ち合わせているバンドで、そこをグロテスクな表現や破天荒な行動でデフォルメしていたバンドだと思っていたので、個人的には変わったというよりはそういったものを取り払って元の姿が顔を見せた、という印象ですね。ただ、一部からは“変わった”とか“ポップになった”という印象を持たれているとは思います。
藤谷:“ポップとは何か”という話ですよね。それこそゴールデンボンバーが「暴れ曲」というタイトルでパロディをするくらいヴィジュアル系バンドが全体的にラウドやメタルをベースにした身体性をもった激しさに振れていっている中で、ポップと言われることをやっているDEZERTの方が尖った表現だという見方もできます。
オザキ:DEZERTというバンドが近年の若手ヴィジュアル系のトレンドになったというのは大きくて、そこから元祖が一抜けしたような感覚というか。
藤谷:そういう意味で “ヴィジュアル系は音楽ジャンルじゃない”と言われる中で、現代のヴィジュアル系バンドのサウンドの代表として挙げられるようなthe GazettE、lynch.らが今年リリースしたアルバムにも変化があったように思うんです。
ーーというと?
藤谷:言語化が非常に難しいのですが“ヴィジュアル系っぽさ”があるというか。美しいメロディ、男性のセクシーさ、なおかつ彼らが過去に聴いていた90年代のヴィジュアル系をパロディではない形で昇華してるという風に捉えました。
冬将軍:バンドって長年活動していくと一周周って原点回帰というか、いろいろやっていく中で自分たちに見合ったもの、求められているものがわかってくる。特にthe GazettEに関してはやり尽くした感もあるんだと思います。今回のツアー、ホールもライブハウスも見ましたけど、“これぞヴィジュアル系”という美学があって、めちゃめちゃ良かったですよ。
藤谷:『NINTH』はここにきて初期衝動を感じさせるようなアルバムになっていますし。
冬将軍:音としてのヴィジュアル系のカッコよさが、きちんとthe GazettEのカラーになっている作品ですよね。このバンドは常に“俺ら最高!”という自信に溢れていることが圧倒的な強さだと思っていて。ロックバンドってそれが全てだし、特にヴィジュアル系はそうあってほしい。でもやっぱり世間的に見れば偏見や誤解もあるし、どこか肩身の狭さを感じる場合も少なくはない。だけど、彼らはどこ行っても、ちゃんとヴィジュアル系であることの誇りを持ってる。私はダークヒーローって例えるんだけど、そういう魅せ方がうまいんですよね。主人公よりもヒールに憧れる少年心ってあるじゃないですか。ロックに目覚める瞬間ってそういうものだと思うから。the GazettEのライブを初めて観た中学生男子が「俺、明日鼻布巻いて学校行くわ!」みたいな(笑)。
藤谷:冬将軍さんがブログで指摘していましたけど、2000年代、DIR EN GREYを筆頭に海外のヘヴィロックシーンからの国内のヴィジュアル系の接続みたいな流れがあったじゃないですか。それがヴィジュアル系の海外評価にも大きな影響を与えましたよね。2010年代に入ると、the GazettEやMUCCがいち早くダブステップを取り入れていましたし。それが、ここに来てある意味90年代ヴィジュアル系回帰ともとれる作品を出しているのが今年気になった点ですね。
オザキ:原点回帰に関しては、単純にそれなりのキャリアが積み上がって、当時自分たちが好きだったものを今表現したら、ちゃんと自分たちの音になる自信があるからこそ、このタイミングだったのかなとは思います。彼らがこのまま回帰を続けるとも思えないので、この次にどう出るのか気になります。
藤谷:今、若手バンドの取材などでルーツを聞くと、ヴィジュアル系バンド以外ですと、ONE OK ROCKやUVERworldを挙げることが多いんです。この2組は時代と同期するようにヒップホップに振れている。その一方で、ヒップホップを取り入れるヴィジュアル系はあまりいないし、むしろヴィジュアル系のサウンドを引っ張っているといえるバンドらが原点回帰している。
オザキ:彼らがロックに目覚めた時に聴いていた当時の音楽性をなぞっているからじゃないですかね。だからちょっと時差があるというか。なので今この瞬間にロックに目覚めた子はヒップホップを取り入れるんじゃないか、と。
藤谷:Leetspeak monstersはゴスとヒップホップを組み合わせてキャラクターとして成立させていますね。彼らはもともとは畑ちがいで、数年前にヴィジュアル系のフィールドに”参入”してきたタイプのバンドゆえの面白さがありますね。